新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」と金子兜太、そして…:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」と金子兜太、そして…
2018.02.23:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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「駐車場雪に土下座の跡残る」―。ホスト同士のけんかの落とし前をつけた証(あかし)なのだろうか。切っ先鋭いが言葉がよどんだ空気を切り裂いていくような俳句が大都会の片隅から聞こえてくる。「俳句」という文字がなければ、きっとあの筋の組織だと思うだろうが、「屍(しかばね)派」はれっきとした俳句集団である。ニ−トやバ−テンダ−、元ホスト、女装家、前科のあるミュ−ジシャン…。月に一回、日本屈指の歓楽街・新宿歌舞伎町のビルの一角にあるたまり場「砂の城」に個性豊かな面々が集まってくる。酒を飲みながらの句会を仕切るのが北大路翼(きたおうじつばさ)さん(39)である。昨年暮、『アウトロ−俳句』を出版した。
真冬、冷たい水のウォシュレットに見舞われた体験を本人はこう詠う、「ウォシュレットの設定変へた奴殺す」―。横浜出身で、小学生の時に種田山頭火の俳句に出会い、この世界にのめりこんだ。新宿コマ劇場の解体をきっかけに「変わりゆく歌舞伎町」をツイッタ−で投句。これを知った俳句好きの”はみ出し者”たちが集まり始めた。彼はこう語る。「屍派にはドロップアウトした経験を持つ、はみ出し者が多かった。みんなと同じであることを強要される社会に居心地の悪さを感じ、距離を置いていた」、「そういう人に限って、真面目すぎるのだ。俳句を上手く詠むためには、社会の見方を少し変えることが一歩となる。その力が身につけば、生きるのは少し楽になるに違いない。俳句は現代を生き抜くための処方箋なのだ」
「アベ政治を許さない」―。「安保法制」の是非を巡って国論が二分した時、野太い筆文字のプラカ−ドが全国津々浦々に掲げられた。筆主の俳人、金子兜太さんが2月20日に亡くなった。享年98歳。太平洋戦争中、海軍の主計中尉としてトラック諸島に赴任。目の前で次々に倒れていく餓死者を目の当たりにした。この時の体験が後に「社会性俳句」の旗手としての地位を不動のものとした。置き去りにした仲間たちへの鎮魂をこう詠っている。「水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る」―。「反戦平和」を訴え続け、安保法制や沖縄の基地問題、米国のトランプ大統領、北朝鮮情勢などを俳句に託すなど「生涯現役」を貫いた。
「KY」(2007年流行語大賞)から「忖度」(2017年同大賞)へ―。KYは「空気を読む」のローマ字略語。医師の鎌田實さんは自著『空気は読まない』の中にこう書いている。「KYって初めて聞いたとき、なんのことだかわからなかった。『空気が読めないヤツ』のことだと教えてもらった。KYって言われたくなくて、みんなが、空気にとらわれはじめた。…昔、みんなが空気感染して、なんだかわからないうちに、ぼくたちの国は戦争をしてしまった。『空気』ばかり読んでいると、あの時代のように、人は、自分の意見や意思を、見失ってしまうのではないだろうか」
「読む」空気があったうちはまだ良かった。わずか10年間の間に私たちは「読むべき空気」さえも自失した「忖度」という名の世界を生きているのではないか。周囲を見渡すと、ヒラメみたいな“上目使い”ばかりである。卑近な例をひとつ―。本来は部下に向けられるべき目線が…係長→課長→部長→副市長→市長へと上昇志向を続けるってな具合。「そりゃそうだよ。『上だ』(上田市政)だもんな」とはある皮肉屋の弁である。議会だって、同じ穴のむじな…九ちゃんの意には決して沿ってはいない「上を向いて歩こう」の大合唱である。
「言葉は凶器である」(2月16日当ブログ「『BARABARA』−向井豊昭の世界」参照)―。屍派の俳人たちや金子さんらは「凶器としての言葉」を携え、よどんだ空気に立ち向かって行った。「忖度」世界にはもはや空気だけではなく、語るべき言葉さえも見当たらない。鎌田さんは自著を以下のように結んでいる。私たちはいま、その言説とは真逆の世界を生きていると思えば間違いはない。上から強制されるのではなく、自らが率先して手を貸す「新手のファシズム」である。
「空気は、人に、街に、時代に伝染する。じわじわ広がり、いつの間にか、気分を高揚させたり停滞させたりする。ときには、景気さえ左右し、経済を動かす。ときには、国を間違った方向に動かす。ときには、人間の行動や生き方までも、操っていく。まわりから浮きたくないと、必死で空気を読む。空気にとらわれる。結局、小さな生き方から出られない。気概を忘れていく。気が抜けていく。心が鬱々(うつうつ)としてくる。空気に流されるな。空気をつくり出せ。空気をよどますな。空気をかきまわせ。それが新しい生き方になる。それが新しい時代をつくり出す。信じていい。空気は…読まない」―。
”ヒラメ人間”に席巻(せっけん)された感のある、この国はどんよりとよどんだ空気にすっぽりと覆(おお)われている。今日、確定申告をしてきた。「忖度」長官が住まう霞が関の中央官庁には連日、「納税者一揆」の抗議デモが押しかけているらしい。「失言癖」のある例の財務相が納税者を小バカにする発言をしでかし、世間は炎上気味。一揆衆よ!空気を、言葉を取り戻すために頑張れ。気のせいか、この日応対した税務職員は随分と丁寧だった。
(写真は自身が編纂した『アウトロ−俳句』を手にする北大路さん=インタ−ネット上に公開の写真から)