風土が生み出す図書館…「こども本の森 遠野」、そして「イーハトーブ図書館」〜今宵は満月!?:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ |
▼この記事へのコメントはこちら
|
ゲストさんようこそ
合計 40人
■記事数
公開 3,360件
限定公開 0件 合計 3,360件 ■アクセス数
今日 10,193件
昨日 11,213件 合計 18,142,566件 |
はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ |
▼この記事へのコメントはこちら
|
ゲストさんようこそ
合計 40人
■記事数
公開 3,360件
限定公開 0件 合計 3,360件 ■アクセス数
今日 10,193件
昨日 11,213件 合計 18,142,566件 |
「まるで、大木の洞(うろ)に入ったみたい」―。遠野市のまちのど真ん中に誕生した「こども本の森 遠野」に足を踏み入れた瞬間、天井まで届く本棚よりもその本たちを支える大黒柱の重量感に圧倒された。それもそのはず、この図書館は元呉服商の建物をそのまま再利用する形で建てられ、不足する資材は県内の古民家から調達された。著名な建築家、安藤忠雄さんが設計し、2021年夏に同市に寄贈された。子どもたちが寄贈を呼びかけた36カ国からの約350冊を含め、収蔵数はざっと1万3千冊。貸し出しはしない。「本の森」の中で読書するのが、ここの流儀である。
「読書を通して得られる知識や体験はスマ−トフォンで得る情報とは比べものにならないくらいの価値があります。遠野には私たちの多くが忘れてしまった『心の世界』が残っています。子どもたちには古い民家を再生したこの図書館で、たくさんの本を読みながら、過去を学び、いまを考え、未来を想像して欲しいと思います」―。安藤さんは開館に当たり、こんなメッセ−ジを寄せている。「遠野と東北」「自然とあそぼう」「将来を考える」「生きること/死ぬこと」…。13の本棚テ−マを見上げているうちに「さながら、夜空に月や星を見る」ような不思議な感覚になった。
ふと気がつくと、小学生がおおいかぶさるようにして本を読みふけっていた。近くの椅子に座り、目の前の童話を手に取る。『かわいそうなぞう』(土家由岐雄著)…いまも読み継がれる絵本童話である。太平洋戦争のさ中、上野動物園の檻(おり)が爆撃され、動物たちが逃げるのを防ぐために行われた「戦時猛獣殺処分」―。ライオンやクマなどが次々に殺され、最後に3頭の象が残される。毒入りの餌を与えようとするが、象たちはまるで察知したかのように口にしない。次第にやせ細り、やがて餓死してしまう。上空を敵機が旋回している。「戦争をやめろ」と叫ぶ飼育員の言葉で、この悲しい物語は終わる。
ところで、あの小学生はまだ本に熱中している。一体、どんな本とにらめっこしているのか、ちょっと気になる。「(宮沢)賢治コ−ナ−」の前で足が止まった。おなじみの作品がずらりと並んでいる。ふいに「Fantasia of Beethoven」(ベ−ト−ベンの幻想)という例のエピソ−ドを思い出した。いま、新花巻図書館の立地候補地のひとつとして注目を浴びている旧総合花巻病院の中庭に賢治が設計し、自らこう命名した花壇があった。当ブログでも前に紹介したことがあるが、私は自信満々の賢治の言葉がとても好きである。賢治はこう豪語している。
「けだし、音楽を図形に直すことは自由であるし、おれはそこへ花でBeethovenのFantasyを描くこともできる」(『花壇工作』)―。遠野通いを続けているうちに「図書館とはそこの風土から生まれる」―という確信がますます、強くなってきた。病院跡地や隣接する花巻城址は賢治作品に数多く登場する、いわば“賢治精神”のホ−ムグラウンドでもある。私が病院跡地へ「イ−ハト−ブ図書館」の立地を切望する、これがゆえんである。気が遠くなるほどの「図書館像」の乖離(かいり)がいまも脳裏にこびりついて離れない。
「たとえば、鉛筆が落ちたら、その音が響くような図書館という考え方とか、いろいろ考え方があると思いますが、場合によってはザワザワしている図書館でもいいのではないかなと思っています」(賃貸住宅付き「図書館」構想を公表した直後の上田東一市長)、「そんなものは図書館とは言えない。この空間は静寂を旨とすべし。図書館の社会的有用性とは来館者数とか貸出図書冊数、そういう数値によって考量されるべきというのは、いかにも市場原理主義者が考えそうな話です」(フランス文学者で、図書館通の内田樹さん=2020年4月9日付当ブログ)
「本の虫」みたいなあの遠野の小学生は今日も「こども本の森」にいるだろうか。この周辺には「とおの物語の館」や「市立図書館・博物館」、「市民センタ−」「元気わらすっこセンター」などの文化施設が点在し、一帯が「一大文化拠点」の趣(おもむき)を呈している。「こんな立地環境こそが本来、想像力を養う小宇宙なのかもしれない」―こんなことを考える今日この頃。さすがは『遠野物語』(柳田國男著)のまちである。
本日(1月7日)の夜空はウルフムーン(神の化身・オオカミの遠吠え)と呼ばれる満月。雲に隠れていたその月が夜半、中天にまん丸い顔を見せた。願かけのキーワードは「新たなスタート」。新成人となった若者たちと手を携え、今年こそは「イーハトーブ図書館」の実現を!
(写真は読書に熱中する小学生。これこそが私が思い描く「夢の図書館」の光景である=2022年秋、遠野市中央通りの「こども本の森」で)