沖縄復帰50年と「イ−ハト−ブ」、そして天皇のお言葉:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「5年前の東日本大震災の際も賢治の詩『雨ニモマケズ』に背中を押されるようにして、世界中から支援の手が差し伸べられました。私自身、宮城県気仙沼市で被災しましたが、賢治精神のその善意に支えられてこれまで頑張ってくることができました。現在は当市に居を移してお世話になっていますが、賢治精神の大切さを改めて実感させられる毎日です」―。沖縄の日本復帰50年の15日、私は「3・11」でふるさとを追われた日出忠英さん(80)の基地削減を訴える切々たる請願書の文面を身を引き締めて読み直した。
沖縄はこの日、戦後27年間に及ぶ米国の統治下から復帰して50年の節目を迎えた。しかし、先の大戦で唯一地上戦の舞台となった沖縄では県民の4人に1人が犠牲となり、現在もなお米軍基地の約7割が集中している。こうした現状を憂えた日出さんは平成28(2016)年6月、花巻市議会に対し「(基地の根拠規定になっている)日米地位協定の抜本的な見直し」―を求める請願書を提出した。「基地を一方的に押しつけられ、日々犯罪の恐怖におびえ続けなければならない沖縄県民の心に寄り添い…」と日出さんは訴えたが、議会側は国の“専管事項”を盾に門前払いをした。
それにしても「雨ニモマケズ」の神通力にはかなわない。何しろ「東西南北」の全方位に不幸や災いがあったら、そこに「行ッテ」寄り添えとそそのかす。私自身、この“挑発”に乗せられて何度、沖縄の地に足を運んだことか。沖縄通いを続けてきた私は市議になりたての平成22(2010)年12月定例会で「賢治精神をまちづくりのスロ−ガンに掲げる当市として、沖縄の米軍基地の訓練の一部を肩代わりする考えはないか」と問うた。本来ななら、この種の議論を先導するはずだと思い込んでいた、あさっての方向から矢玉が飛んできた。
「(沖縄における)女性暴行などの米兵による犯罪と騒音被害は想像を絶しており、花巻市民がそれを受け入れなければならない理由などありません」(共産党市議の議会報告から)。この気の遠くなる認識の乖離に腰を抜かした私は折り返し、公開質問状を送った。「沖縄の痛みを自分自身の問題としてとらえ、1人ひとりが真剣に沖縄の現実に向き合うべきではないのか―。こともあろうに革新を標榜する公党がわたしの言いたかったことの趣旨を理解できなかったのだとすれば、それはもはや驚くべきほどの『想像力の欠如』と言わざるを得ない」―
「他人事」から「自分事」へ―。賢治の「行ッテ」精神の真髄はここにあるという考えに変わりはない。それどころか、収束の見通しも立たないコロナ禍や残酷無比なウクライナ戦争を目の当たりにする今こそ、この精神の大切さを思い起こす必要があるのではないか。しかし、賢治の理想郷「イ−ハト−ブ」はどうも真逆な道行きを辿っているように思えてならない。「雨ニモマケズ」をもじった「弾ニモマケズ」などという大政翼賛的な愚劣なパロディが(上田)市長周辺でもてはやされたと思ったら、「ロシア侵攻」に反対する市議会決議(3月4日)の原文から、賢治の代表的な平和メッセ−ジ…「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)という一節がいつの間にか消えてなくなるという“椿事”も起きている。
この日の復帰50年記念式典で、天皇陛下は以下のようなお言葉を披露した(要旨)。「大戦で多くの尊い命が失われた沖縄において、人々は『ぬちどぅたから』、命こそ宝の思いを深められたとうかがっていますが、その後も苦難の道を歩んできた沖縄の人々の歴史に思いをいたしつつ、この式典に臨むことに深い感慨を覚えます。沖縄には今なお様々な課題が残されています。今後、若い世代を含め広く国民の沖縄に対する理解がさらに深まることを希望するとともに、今後ともこれまでの人々の思いと努力が確実に受け継がれ、豊かな未来が沖縄に築かれることを心から願っています」
お言葉の中の「課題」とは「過重な米軍基地の存在」などを指すものと思われ、”政治的な発言”を避けるための言い回しだと専門家は指摘。さらに「課題」に触れられたのは初めてのことだという。とまれイ−ハト−ブはいま、深刻な根腐れ病に犯されているのは間違いなさそうである。
(写真が住宅地に接するようにオスプレイが駐機する米軍普天間飛行場(宜野湾市)。辺野古(名護市)への移設工事が進んでいる=インタ−ネット上に公開の写真から)