花巻市長・上田流「コンプライアンス」のチグハグ〜礼節もいずこかへ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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「本件に関する警察の捜査に協力するとともに、捜査の進展を見守りつつ当該消防士に対しては厳正な処分を行い、…職員一丸となって職務にまい進し、一日も早く市民の皆様からの信頼を回復できるよう努めてまいります」―。11月8日、免許停止期間中の花巻市の消防士(26)が救急車の運転をしていた事案が明るみに出た際、上田東一市長は“厳罰”をほのめかしながら、報道陣の前に深々と頭を下げた(11月7日付当ブログ「追記」参照)。「ところで、あなたにとってのコンプライアンスとは何か」…私はこの光景を見ながら、ふと鼻白む気分になった。3年前の平成28年6月定例会でのやりとりを思い出したからである。
「コンプライアンスは、一義的には法令遵守と訳されているところでございまして、広義のコンプライアンスとしては、法令はもとより、県や市町村の条例、規則等、さらには社会的な規範の遵守まで含まれているものと存じているところでございます」―。私の一般質問に対して、上田市長はこう明言した。当時、全国の自治体では「コンプライアンス」に関連して、首長自らの行動を律する条例化の動きが出ていた。たとえば、富山県氷見市では同じ6月定例会で「氷見市長等の行動規範及び政治倫理に関する条例」を制定し、「地方自治法第142条の規定の趣旨を尊重し、市長等の配偶者若しくは1親等の親族又は法人に対し、市等との請負契約等を自粛するよう働きかけ、市民に疑惑の念を生じさせないよう努めること」(第7条)と規定した。
地方自治法「第142条」は首長などの兼業を禁止した規定で、こう定めている。「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない」―。その当時(平成27年度現在)、花巻市から一般廃棄物の収集・運搬業務を委託されている業者は全部で14社あった。うち、ごみ収集業務などの請負額が一番多い会社の代表取締役に上田市長の配偶者が就任していることが判明し、市民からその是非を問う声が聞かれた。
私はそのこと(配偶者の代表取締役)自体は法に抵触するものではないという前提に立ったうえで、「コンプライアンス上の、いわゆる“社会規範”について」―の認識をただした。上田市長は後任の人材探しが難航したことなどを理由に挙げながら、前言を翻(ひるがえ)すような説明をした。法律にうとい素人にはとても理解不能な、いわば“目くらまし”的な便法がこの人の得意技である。牽強付会(けんきょうふかい)……つまり「自分の都合のいいように、強引に理屈をこじつける」―とはこのことではあるまいか、とその時に思った。
「社会規範というのは定義ございませんし、これはそのときそのときで市民の皆様、あるいは我々が考えていくものだろうと思います。その意味で、はっきり規範はどこにあるのかということについては、必ずしもクリアに出てくるものではないだろうと思っております。…その上で申し上げますけれども、コンプライアンスというのは全てではないのです。コンプライアンスを守れば、全てが解決する問題ではございません。規範というのは、言ってみればル−ル化している、あるいは法に近いものを規範というと私は理解しています。それを守ればいいのではなくて、要するに、物事をはっきりさせた上で、とにかく規則を守りましょうよというのがコンプライアンスなのです」(会議録から)
「家内が代表者であることは、なるべく早くやめてほしいというのが私の気持ちです。いや、それではいけないのだと、例えば議会で条例化して、会社をやめるか、あるいは市長をやめるかどちらかをとりなさいと規定されれば、そのときには考えなくてはいけません。私は規範に違反しているとは思いませんけれども、妥当ではないということでル−ル化するとお考えになるのは全く反対するものではございません。そういうことであれば、それは検討していただきたいと考えている次第です」(会議録から)―法令だけでなく、(社会)規範にも違反していない。ダメだというなら、議会の責任で条例化するなりしてほしい…私にはこんな“開き直り”に聞こえたのだった。
「罪を憎んで、人を憎まず」―。将来のある消防士の不祥事の報に接した時、私はこの青年がなぜ、仲間や上司に対応の処し方を相談しなかったのか…ということが真っ先に頭をよぎった。高速道路上の速度違反はうっかりすると、誰でも犯してしまう。私も若気の至りで、速度オ−バ−をした苦い経験がある。だからこそ、「免停のまま、救急出動につかざるを得なかった」というその“孤立”に、私は慄然(りつぜん)とさせられたのである。さらには、違法行為(免停中の救急出動など)の罪状がまだ確定していない段階で、当該職員の実名をHP(11月8日付)上に公開するという人権感覚の欠如にも驚いてしまう。
当市にはコンプライアンスに関し、「花巻市職員倫理規程」(平成25年)や「不正防止に係る内部通報制度」(平成27年)などきめ細かい取り決めがある。しかし、コンプライアンスはある意味で、「同調圧力」と「忖度(そんたく)」を抱え持つ“両刃の剣”でもある。前者が強まれば強まるほど、後者が頭をもたげてくる。つまりは仲間内への気遣いは次第に薄れ、上司の顔色をうかがうだけのヒラメ集団化してしまうのは目に見えている。最近の“上田城”にはそんな雰囲気が強まっているような気がしてならない。殺伐とした空気が庁内に充満している。
「市長等は、地方自治法その他の法律における市長等の兼業禁止に関する規定の趣旨を尊重し、市民に疑惑の念を生じさせないようにするため、その配偶者、2親等以内の親族又はこれらの者が役員をしている会社その他の法人若しくは次に掲げる会社(略)その他の法人に、市との工事、製造その他の請負契約及び物品の購入契約の締結を辞退させるものとする」(第5条)―。大阪府と京都府の県境にある茨木市は2年前、配偶者がその行政と請負関係にある会社の役員などに就任することを禁止する厳しい条例を制定した。
一方の足元では真逆な動きが進行していた。上田市長の配偶者はその後、平成29年2月19日付でいったん代表取締役の座を退いたが、今年(平成31年)2月1日付でふたたび、その任に返り咲いていた。茨木市など他の自治体などとの認識の乖離(かいり)に驚かされる。現場職員にコンプライアンス(法令遵守)を求めるのなら、トップとしてまず自らの襟(えり)を正すのが先決ではないのか―。この日、令和元年最後の12月定例会が開会した。二元代表制の根本に立ち返り、議員諸侯に置かれては、市長ら当局側の監視をゆめゆめ怠ることなかれ……
(写真は「何でも話せる職場」こそがコンプライアンスの基本だと訴える漫画=インタ−ネット上に公開の写真から)
《追記−1》〜自己責任への言及なし
12月定例会初日の6日、上田東一市長は当ブログで取り上げた消防士の不祥事に触れ、「免停中に救急車を運転した事案については現在警察で捜査中であり、その進展を見守りながら、当該職員に対しては厳正に対処したい」と述べた。結局、行政トップとしての「自己責任」への言及はなく、コンプライアンスだけでなく、ガバナンス(統治能力)の欠落もさらけ出した。
《追記ー2》〜中村さんの死、黙とうさえもなく…
アフガニスタンで非業の死を遂げた医師の中村哲さん(享年73)に対し、皇室のほか安倍晋三首相ら各界から弔意があふれ、9日開催された衆院本会議では大島理森議長の追悼の言葉に続いて、出席者全員が黙とうを捧げた。同じこの日、花巻市議会3月定例会で一般質問が始まったが、上田東一市長は答弁に先立ち「中村さんは宮沢賢治賞(イーハトーブ賞)を受賞しており、心からご冥福を祈りたい。告別式には職員を派遣したい」と述べるに止まり、議会側にも黙とうを促す動きはなかった。賢治もきっと、あの世で失望していることであろう。4日付当ブロブの追悼記事を参照願いたい。