鹿踊りと外国人ダンサ−、そしてラグビーワールドカップ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ |
▼この記事へのコメントはこちら
|
ゲストさんようこそ
合計 40人
■記事数
公開 3,360件
限定公開 0件 合計 3,360件 ■アクセス数
今日 2,998件
昨日 2,857件 合計 18,124,158件 |
はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ |
▼この記事へのコメントはこちら
|
ゲストさんようこそ
合計 40人
■記事数
公開 3,360件
限定公開 0件 合計 3,360件 ■アクセス数
今日 2,998件
昨日 2,857件 合計 18,124,158件 |
珍客といっても、これ以上の珍客はめったにない。花巻まつり(9月13〜15日)の直前、知人から「変な外国人ダンサ−が行くから、面倒を見てくれないか」という連絡が入った。会うなり、合点がいった。日系米人のデビ−・梶山さん(52)とパ−トナ−でメキシコ出身のホセ・ナバレテさん(52)。ともに米国内外でパフォ−マンス(一人芝居)を演じ、今回の来日は三陸の大槌町に伝わる「臼沢鹿(しし)踊り」の見習い修行が目的とのこと。東日本大震災の翌年、ボランティアとして、被災地を訪れた際に遭遇した鹿踊りや虎舞の力強さに「体がびびっと震えた」という。「ちょうど、良かった。花巻まつりの中日に鹿踊りの大乱舞があるよ」と誘ったら、レンタカ−で飛んできた。
市内中心部を練り踊る20団体の勇壮なパレ−ドに2人は身を乗り出すようにして見入った。「ところで、どうして鹿踊り?」と私。「実はメキシコにも同じような踊りがあるんですよ」という返答にこっちの方がびっくり。作家の城山三郎は『望郷のとき 侍・イン・メキシコ』の中で、伊達藩の家臣ー支倉常長の遣欧使節団が伝えたのではないかという「日本伝来説」を紹介しているが、ホセさんは「いや、それは違う」と首を横に振った。ウキペディアで調べてみると、こんな記述が見つかった。
「メキシコのソノラ州やシナロア州、アメリカ合衆国のアリゾナ州に住むヤキ族(YQui)には、頭に鹿の面をつけ、鳴り物を持って踊る「Danza・del・Venado」がある。アリゾナのヤキ族はメキシコから逃れた一派が定着したと言われるネイティヴ・アメリカン(アメリカインディアン)の一部族で、メキシコの土着宗教にキリスト教が混淆(こんこう)した宗教的儀礼として鹿踊りとその歌が今に伝えられている」―。ホセさんがうなずきながら言った。「一種の供犠(くぎ=サクリファイス)。先住民族の多くは狩猟を生業(なりわい)にしてきた。だからこそ、その生贄(いけにえ)に対する感謝の気持ちを芸能に託したのだと思う」。そういえば、この地方に伝わる鹿踊りも同じような起源を持っている。
一段と躍動感のある一団が目の前を通り過ぎて行った。かつて、宮沢賢治も教鞭をとった県立花巻農業高校鹿踊部である。演武が終わった部員のひとりが鹿の面を外した。中から現れたのは可愛らしい女子部員だった。「ワンダフル!?」と2人は歓声を上げた。私はハタと思い至り、イ−ハト−ブ館に走った。賢治の童話画集『鹿踊りのはじまり』をお土産に手渡し、「今度はアメリカでこれをやってみたら…」。2人は指を丸めてニッコリ笑い、こう続けた。「芸能の原点は鎮魂の儀式だと思う。その点では世界共通。メキシコと目の前の踊りはだから、根っこは同じだよね」−。『耳なし芳一』(小泉八雲=ラフカディオ・ハ−ン)などの日本の作品も手掛ける2人は自身の演技について、こう書いている。
「社会正義を主に創造の源として、作品作りに取り組んでいます。私の作品は、観客の想像力を刺激する革新的な芸術作品のための種を撒(ま)きます。権力のシステムがどのように形成され、それが私たちにどのように影響を与えるのか?を探求する世界へ皆さんをお招き致します」(ホセ)、「感情と五感を呼び起こすパフォ−マンスを明示するために、共同制作を進めています。私は表で語られる必要がある、曖昧で、まだ形もなさず、ささやかれるだけで世の中では語られていない隠れたスト−リ−が大好きです。また物、イメ−ジ、動体、夢の中にある物語を掘り起こす作品に関心があります」(デビ−)
ホセさんはカリフォルニア州立大学バ−クレ−校で人類学を学び、米国生まれのデビーさんは広島出身の祖父母が経営する農場で育ち、スタンフォ−ド大学などで舞踊(パフォーマンス)を身に付けた。2人の活動拠点である「NAKAダンス・シアタ−」は2001年に設立。代表作には2014年、メキシコ国内で43人の学生が権力に手によって、失踪させられた事件をテ−マにした「ブスカルテ」と題するパフォ−マンスがある。このほか、近作には「水の商品化」、「文化の植民地化」、「災害時の人間の葛藤」などがあり、いずれも人類史と民間伝承を組み合わせ、観る側に社会問題を複眼的に考えさせるような工夫がなされている。
2人が日本まで足を延ばした理由について、今度は当方が合点させられた。「そういえば、『耳なし芳一』も没落した平家一門の鎮魂を願ったものだったな。いや、隣の北上市の鬼剣舞もこの地方に伝わる念仏踊りもみんなそうだよな。それにアイヌ民族のタプカラ(踏舞)も…」―。ところで、ラグビ−ワ−ルドカップの優勝候補の一角、ニュ−ジ−ランドチ−ム(オ−ルブラックス)が試合前に披露する、おなじみの「ハカ」は相手を威嚇する民族舞踊であると同時に、その起源は同国の先住民族・マオリ族が死者の霊を供養したのが始まりともされる。なんとも国際色豊かな季節の移ろい…。今年は私にとって、実に実りのある年になりそうである。
(鹿踊りパレ−ドを熱心に動画に収めるホセさん(左)とデビ−さん=9月14日午後、花巻市上町で)