アジサイとスギナとカエルとヘビ…:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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玄関先と庭のアジサイ(紫陽花)が咲いた。亡き妻が愛したガクアジサイである。一周忌(7月29日)を前に今月初め、荒れ放題だった草取りをシルバ−人材センタ−に依頼。花を縁取る額縁のような見事な咲きっぷりに見とれていたのもつかの間…「難防除雑草」と忌み嫌われるスギナがアジサイの足元に襲いかかろうとしているではないか。地下茎を伸ばして繁茂し、草花の大敵である。さて、腰をかがめて引き抜こうとするも、途中でプツンと切れてしまい、その先はまるで地下をはいめぐるヘビのよう。近くのため池から、カエルの大合唱が聞こえてきた。こうなったらもう、「蛙の詩人」と呼ばれた草野心平さん(1903〜1988年)に登場してもらうしかない。
「るるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」(「春殖」)―。ひらがなの「る」だけを20個並べた不思議な詩がある。オノマトペ(擬音・擬態語)の天才と言われた心平さんの詩集『第百階級』は収録された45編すべてがカエルをテ−マにしている。そのひとつ「号外」はヘビににらまれ通しのカエルがその死に歓喜する詩である。虐げられた階級に位置づけられるカエルたちが抑圧者たるヘビの死を喜んでいる光景が目に浮かんでくる。私にはカエルの鳴き声は「ぐわっ、ぐわっ」としか聞こえないが、心平さんの手にかかると、こんな風に変奏する。「ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ」という異様なオノマトペがカエルの喜びの強烈さをよく伝えている―と解説にはある。
界隈でいちばん獰猛な縞蛇が殺された
田から田へ号外がつたはって
みんなの背中はよろこびに盛り上がった
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
ぬか雨の苗代に
蛾がふるへてゐる
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ
さて、ヘビならぬ我がガクアジサイの仇敵のスギナといえば、梅雨がもらす慈雨を思いっきり吸い込んで、日に日に勢いを増すばかり。老残の身との戦いはどう見てもスギナの方に分がありそうである。妻が旅立った昨年の夏も紫陽花は見事な花を咲かせていた。あと1か月余り、ほとんど“勝ち目”のない、スギナとのいたちごっこを私は続けなければならない。そんな時の応援歌こそがカエルたちの雄たけびである。「ぎやわろッぎやわろッぎやわろろろろりッ」―。梅雨空の下のハ−モニ−は心地よくもある。
そういえば、宮沢賢治の『春と修羅』に共鳴した心平さんは生前の賢治とは会う機会には恵まれなかったが、その作品のすばらしさを世に紹介し続け、最初の全集(文圃堂版『宮澤賢治全集』)の刊行に尽力した。忘れかけていた、そんなこともカエルたちは思い出させてくれた。
(写真はガクアジサイの見事な競演。梅雨空に一番似合う、と亡き妻は言っていた=6月27日、花巻市桜町の自宅で)
《追記》〜カエル塾
6月28日付朝日新聞の「ひと」欄を見てびっくり。「カエル塾」の塾長を名乗る宮城県気仙沼市・唐桑半島の馬場国昭さん(74)のことが紹介されていたからである。辛うじて東日本大震災から生き延びた、自称「唐桑の不良おやじ」の馬場さんは学生たちに震災体験や波乱万丈の人生体験を語り続ける。塾生はのべ1万人。カエルのぬいぐるみを拾った学生がこう名づけた。この空間からもカエルたちの雄たけびが聞こえてくるようである。恋に悩む女性に対しては「思い詰めるな。スペアの男を作れ」―。それにしても、“カエル談議”がこんな風にして相まみえる、とは!?