ヒカリノミチ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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ヒカリノミチ
2018.09.01:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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上掲の写真は東日本大震災から5か月後の2011年8月11日、私を含む有志でつくった支援組織「いわてゆいっこ花巻」が宗教学者で、当市・花巻出身の山折哲雄さん(87)を講師に招いて開催した「3・11大震災とイ−ハト−ブ」と題する講演会のポスタ−である。片隅に山折さんが震災後に書いた文章の一部が掲載されている。「言葉は無力です。そばに寄り添って祈るしかない。悲しみを共有できない負い目を背負う以外にない」(同年6月18日付「朝日新聞」)ー。このイベントの際、裏方として働いた妻はもういない。旅立って早や、1ケ月が過ぎた。この日(9月1日)、同じ会場の花巻市文化会館で開かれた「市民憲章運動推進第53回全国大会」で、山折さんは「賢治の銀河宇宙とマコトのまちづくり」をテ−マに講演した。妻の遺影をふところに忍ばせ、私は最前列で耳を傾けた。
「イ−ハト−ブとは(宮沢)賢治が“人間苦”からの解放を目指した物語世界ではなかったのか」―。7年前に比べて、声はややかすれ気味だったが、「最近は妄想癖が高じて…」と“山折節”は健在だった。亡き妻は山折さんの言葉に導かれるようにして、被災者支援(ボランティア)に打ち込んでいった。今回の妻の訃報を伝え聞いた被災者の皆さんが先月中旬、焼香に訪れてくれた。「あの大震災で肉親や友人を失った皆さんのお気持ちが少し、分かったような気がします」―。不幸の度合いは比ぶべくもないと自覚しつつも、胸の奥にしまい込んでいた言葉をやっと、口にすることができたと思った。この日の歓迎アトラクションとして、賢治が生前、教鞭を取った県立花巻農業高校の鹿踊り部が賢治作品にも登場する「鹿(しし)おどり」の演武を披露した。
「日ハ君臨シ カガヤキノ/太陽系ハ マヒルナリ/ケハシキタビノ ナカニシテ /ワレラヒカリノ ミチヲフム」―。賢治は当時、校歌を持たなかった生徒たちのために「精神歌」(花巻農学校精神歌)を作詞した。山折さんの話を聞きながら、私は4番目に出てくるこの歌詞こそが「イ−ハト−ブ」が目指す道行きではないかと思った。そういえば、今夏の甲子園大会で準優勝の偉業を成し遂げた秋田県立金足農業高校の校歌にも未来を暗示する内容がある。「可美しき郷 我が金足/霜しろく 土こそ凍れ/見よ草の芽に 日のめぐみ/農はこれ たぐいなき愛/日輪の たぐいなき愛/おおげにや この愛/いざや いざ 共に承けて/やがて 来む 文化の黎明/この道に われら拓かむ/われら われら われら拓かむ」…
背中合わせの両県の農業高校の生徒たちから、力をもらったような気がする。「ヒカリノミチ通信」という新しいタイトルで、私はブログを再開しようと思う。亡き妻とこの国の未来に光あれ―という願いを込めて…。「マコトノクサ通信」から「イ−ハト−ブ通信」を経て、今度は「ヒカリノミチ通信」へ―。考えてみれば、わがブログは賢治の物語世界を行ったり来たりしていたのだった。奇しくもこの日、山折さんは「里に降りてよみがえる『先祖』」と題する一文を新聞に寄せている。その一節を引用する。ちなみにこの日は95年前、約10万5千人の死者・行方不明者を出した関東大震災の日に当たっている。
「戦争で死んだヒト、災害で命をおとしたヒト、それぞれの寿命を生きて去っていったヒト、みんな帰るべきところに帰っていく。…山にのぼり森に入った先祖たちは、やがてカミの変化(へんげ)、ホトケの化身としてふたたび里に降りてくる。里からの魂呼(たまよ)ばいの声に答えて降りてくるのだ。それが昔からの古式ゆかしい、人間関係ならぬ対魂関係の、素朴な姿だった」(9月1日付「朝日新聞」be面)―。旅立った妻との魂の対話はこれから、どんな形で始まるのだろうか…。私は「精神歌」を口ずさみながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
日ハ君臨シ カガヤキハ/ 白金ノアメ ソソギタリ
ワレラハ黒キ ツチニ俯(ふ)シ /マコトノクサノ タネマケリ(1番)
日ハ君臨シ 穹窿(きゅうりゅう)ニ/ミナギリワタス 青ビカリ
ヒカリノアセヲ 感ズレバ/気圏ノキハミ 隈(くま)モナシ(2番)
日ハ君臨シ 玻璃(はり)ノマド /清澄ニシテ 寂(しず)カナリ
サアレマコトヲ 索(もと)メテハ/白亜(はくあ)ノ霧モ アビヌベシ(3番)
(写真は復興支援と銘打った山折講演会のポスタ−)