キジムナ−とチビチリガマの“受難”:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
キジムナ−とチビチリガマの“受難”


 「キジムナーは海に棲(す)む妖怪なんだよ」、「ちがう。あいつはな、ガジュマルの木に暮らしている森の妖精なんだぞ」―。受話器の向こうから孫たちの元気な声が伝わってきた。7歳と10歳の兄弟。親はヤマト(本土)からの移住者だが、沖縄(石垣島)で生まれ育った幼子たちにとってはやはり、キジムナ−が一番身近な存在らしい。この伝説上の生き物は沖縄戦を体験した当時の沖縄っ子たちにとっても「戦後」を生き抜くための欠かせない同伴者だった。「ウルトラマン」シリ−ズなどのシナリオライタ−として知られる、沖縄出身の作家、上原正三さん(80)の近作『キジムナ−Kids』はそんな妖怪や妖精たちの「夢と冒険」の物語である。

 

 約10万人にも上る民間人が犠牲になった地上戦の舞台は米軍が支配する無法地帯と化していた。腹をすかせた子どもたちはガジュマルの木の上に「キジムナ−ハウス」と名づけた秘密基地を作り、せっせと略奪行為を繰り返した。アイスクリ−ムの粉末缶やチョコレ−ト、黄桃缶、コンビ−フ入りのKレ−ション(米軍の野戦食)…。みんな、Kidsたちの“戦果品”を分け合いながら、戦後の飢えをしのいだ。まわりには米軍の機銃掃射で親兄弟を失った子どもたちや集団自決を強制されたガマ(自然壕)が点在していた。寄る辺のない魂に引き寄せられるようにして、Kidsたちはその中へと足を踏み入れる。こんな描写がある。

 

 「ガマは細長くどこまでもつづいている。しばらく行くと、さらに狭くなった。ハブジロ−(Kids仲間)は背をかがめるように進む。ポ−ポ−、ボク、ベ−グァ(いずれも同)がつづく。足がすくんだ。岩壁一面にされこうべが積み重ねてある。ボクの背丈ほどもある。無数の眼窩(がんか)が虚空を睨みつけている。さらに両脇には人骨が薪のように束ねられて丁寧に積み重ねてある。されこうべと手足の骨、肋骨をロウソクの炎がゆらゆらと照らし出している。薄暗がりの中に人影が立つ。日本軍兵士の外套で身を包んでいる。血の気が引いた。まぎれもない、されこうべの兵士がラッパを手にしているのだ」

 

 「沖縄『集団自決』のガマ/荒らされる」(9月13日付「朝日新聞」)―。読後間もなくして、こんな見出しの記事に目を奪われた。沖縄戦の際、83人が「集団自決」した「チビチリガマ」(沖縄県読谷村)で、入り口の説明版や内部の遺品などが荒らされ、千羽鶴が破り捨てられているのが見つかったという記事だった。1987年、遺族たちの手で入り口近くに「世代を結ぶ平和の像」が建立されたが、同年、右翼団体によって破壊され、95年に再建された。「またか…」と思ったが、4日後の記事に二度びっくりした。新聞各紙は県内に住む16歳〜19歳の少年4人が器物損壊の疑いで逮捕されたことを伝えていた。少年たちは「肝(きも)試しだった」「心霊スポットに行こうと思った」と自供し、「過去の歴史は知らなかった。大変なことをしてしまった。遺族の方々の心を傷つけてしまった」と反省の言葉を口にした。

 

 

 「平和学習の成果がなかったのではないか」、「沖縄戦の風化がここまで進んでいるとは…」、「遺族たちは3度、殺された」、「よりによって地元の子が…肝試しをという動機の落差に、世代の溝の深さを思う」…。このショッキングな出来事をめぐって、沖縄内外では様々な意見が相次いだ。その内容にはいちいち納得できたが、一方で「果たしてそのことを言い募るだけで事は解決するのだろうか」という思いも頭をもたげた。

 

 私自身、チビチリガマの悲劇を知ったのは10年ほど前だが、実際にその現場に足を運んだのは今年5月のことである。地元に住む彫刻家で「世代を結ぶ平和の像」を遺族とともに制作した金城実さん(78)に案内していただいた。今回の事件では金城さんが作詞した「チビチリガマの歌」を刻んだ木製の標識も破壊された。「沖縄の魂」を語り続ける老彫刻家の表情を思い出しながら、私はふいに思った。「その事実自体を不問に付すつもりはないが、今回の不祥事を引き起こした遠因は私たちの無知・無関心ではなかったのか」(2017年5月7日付当ブログ「われ、誇り高き土人たらんと」及び6月4日付「『沖縄を叫ぶ』ー彫刻家・金城実」参照)―。

 

 天空をさ迷う霊魂たちに誘われるようにして、Kidsたちがガマを目指したように、今回の少年たちも無意識のうちにその気配を感じ取っていたのではないか。それにくらべ、私たちヤマトゥ(本土人)はチビチリガマの凄惨な記憶、いや沖縄戦といまに続く高江や辺野古をめぐる、現在進行形の強権支配の実相にどれほどまでに向き合っているのだろうか。「見て見ぬふり」をしてはいないかー。

 

(写真はキジムナ−のイメ−ジキャラクタ−。ガジュマルの木に棲みついているらしい=インタ−ネット上に公開の画像から)

 

 


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