『荒地の家族』と早池峰信仰〜そして、図書館”立地論争”と…:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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『荒地の家族』と早池峰信仰〜そして、図書館”立地論争”と…


 

 「仙台南署管内の(若林区)荒浜1,2丁目で、200〜300の遺体が発見されている」―。東日本大震災が発生した2011年3月11日午後10時16分、宮城県警が発出した参考情報(第68報)は直後にその数字の誤りは修正されたものの、想像を絶する被害の甚大さを予感させるに十分な急報だった。私自身の「3・11」の記憶もこのおどろおどろしい数字と切り離すことができないまま、いまに至っている。

 

 死別、離別、自死、邂逅(かいこう)…。第168回芥川賞を受賞した『荒地の家族』(佐藤厚志著)はこの荒浜地区を舞台にした物語である。「人が住み、出ていく。生まれ、死んでいく」―。あの大災厄からまもなく12年、ある造園家がその地をさまよい歩いた末にたどり着いた境地に粛然たる気持ちになった。こんなくだりがある。「白い要塞のように聳え、海から人を守っているのでなく、人から海を守っているように見える防潮堤に向かって祐治(主人公)は歩いた。…用途のないこの場所に植物の興亡だけがあった。住宅は建たない。畑にしては海に近すぎる。人の手で均一にされた風景であるのに人を寄せつけない。忘れられた空間を海からの冷たい風だけが吹き抜ける」

 

 こんな荒漠たる光景がふいに、忘れかけていた記憶を呼び戻したようだった。私は震災直後から大槌町を中心とした三陸沿岸の被災地の支援活動に奔走した。夢遊病者のように瓦礫(がれき)の荒地を彷徨(ほうこう)するひげ面の男がいた。母親と妻、一人娘を津波にさらわれた白銀照男さんの痛苦が小説の主人公「祐治」の姿に重なった。その照さんは昨年12月21日に病没した。享年73歳。3人の行方はわからないままだった。「もう待ちきれなくなって、自分の方から会いに行ったんだな」と私はそう自分を納得させた。

 

 三陸の漁師たちが当時、避難所の中で「山談義」に花を咲かせる理由が最初はさっぱり、理解できなかった。ある時、照さんが「漁師にとっては山こそがいのちなのさ」とヒントを与えてくれた。そういえば、三陸沿岸一帯には海上安全と大漁を祈願する「早池峰講中」の石碑があちこちにあったことを思い出した。自らの持ち船に「第8早池峰丸」と命名した大槌町のある老漁師はタウン誌「パハヤニチカ10号」(2000年10月号)にこんなエピソ−ドを語り残している。「山立て」という言葉をこの時、初めて知った。

 

 「朝見ると、大したきれいにみえる。涙がこぼれるぐれえ立派な山だ。沖に出ると、先ず船の高いところへ上がって山(早池峰山)を見るわけだ。このあたりでは(「山立て」のことを)“山かんぞう”といった。それから縄(はえ縄)をぶつわけだ。船の居場所で山の形が違う。船の中では毎朝、ご飯釜のフタにご飯をのせ『早池峰さん』と口で三回唱えるのが欠かせない儀式だった。魚を獲るなら、山を取れということさ」―

 

 新花巻図書館の“立地論争”の渦中のさ中、その霊峰・早池峰山がいま、私たちの目の前に神々しいばかりの雄姿を見せている。白雪をいただいて、キラキラと輝く山容は息をのむほどの美しさである。漁師だけではなく、内陸の私たちにとってもこの山は行く手を指し示す道しるべ―航路をまちがえないための“羅針盤”のような存在である。いま、旧花巻病院跡地から遠望するこの景観の地こそが、図書館立地の最適地だという声が市民の間に高まっている。

 

 古来、日本人には死んだ人の霊は山に宿るという信仰(山霊)がある。照さんが旅立って1か月が過ぎた。霊峰に導かれたその霊はもう3人の肉親との再会を果たし、水入らずの一家だんらんを楽しんでいるにちがいない。止むことのない渇(かわ)きと痛み(本文から)を抱え続ける「荒地の家族」たちは、これから先もあの大災厄の記憶とともに生き続けなければならない。私たちはその記憶の風化にいかに抗(あらが)うことができるのだろうか…。「イーハトーブ」(宮沢賢治が名づけた「夢の国」=理想郷)に住まう私たちはいま、受難者に寄り添うというあの”賢治精神”ときちんと向き合うべき時を生きているのかもしれない。

 

 

 

 

(写真は仙台市内の書店に勤める佐藤さんの受賞作)

 

 

 

《注》〜議会報告会がスタート

 

 「市民と議会との懇談会」(議会報告会)が2日から3日間の日程で、市内12か所の振興センタ−単位で始まった。議長を除く25人の議員が4班に分かれ、議会活動などの報告をする、新花巻図書館やJR花巻駅橋上化(東西自由通路)の二大プロジェクトに市民の関心が高まっており、意見交換の内容が注目される。当ブログでは全日程が終わり次第、その詳細をお伝えします。

 

 

 

 


2023.02.01:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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