号外―ルポ「としょかんワ−クショップ」その5(完―1)…「アドバイザ−」考現学:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
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号外―ルポ「としょかんワ−クショップ」その5(完―1)…「アドバイザ−」考現学
2020.10.25:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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「計画書などの成果物を見れば、逆に関わったアドバイザ−の“品質”の度合いが見えてくる」―。図書館などビッグプロジェクトの成否を左右するのは助言者たる「アドバイザ−」の手腕であることは言を待たない。では、「賃貸住宅付き図書館」の駅前立地(いわゆる“上田私案”)というグロテスクで、奇怪な新花巻図書館構想はいかなる出自のもとに産み落とされたのであろうか。WSの最終回はその出生の秘密に迫ってみたい。
「JR花巻駅前のJR用地を活用した新図書館整備事業。図書館と民間賃貸住宅を合築し、図書館に住むという新しいライフスタイルを花巻市民に提供する…」―。今年1月29日、“上田私案”がまさに青天の霹靂(10月15日付当ブログ参照)のように降ってわいた1か月以上も前の昨年12月19日、東京・永田町の首相官邸でこんなうたい文句の事例発表があった。国の目玉政策のひとつである「地方創生」を推進するための首相直属の会議で、議長には安倍晋三首相(当時)が就任していた。発表したのは紫波町で民間主導の「地域経営・公民連携事業」―「オガ−ル・プロジェクト」を展開する同社社長の岡崎正信さん。その手腕は公民連携の成功例として全国にも鳴り響いていた。
花巻市議会9月定例会の決算特別委員会(令和元年度分)に「新花巻図書館整備アドバイス業務」という名目で、4931千円が計上された。岡崎さんに委託した分の経費で、事業の成果については、こう記されている。「新花巻図書館整備基本計画の策定に向けて、候補地の検討や複合施設として整備する場合についてアドバイスを得た」―。私はその仔細について、市側に行政文書開示請求を行い、9月29日付で受理された。開示決定は原則として15日以内に行われることになっているが、11月12日まで45日間、開示決定を延長する旨の連絡が突然、届いた。「請求内容に第三者に対する情報が記録されており、その意見照会に日数を要するため」と理由が記されていた。
「岡崎さんが花巻の事例について説明したことは知っていた。しかし、個人の立場での発表であり、市として関与したわけではない。ただ今後、国の有利な融資を受けるためにも花巻の考えを伝えてくれたのは良かったと思っている。こうした大きな事業を進めるためにはこの種の同時並行的な手続きが必須である」―。当時、上田東一市長は岡崎さんの“越権行為”をこう弁護した。「リノベ−ション」(建築物などの再利用)の“旗手”などともてはやされる、その実力にいささかの疑義を差しはさむものではない。私がイラッとしたのはその礼儀知らずの無礼に対してである。「市民や議会の頭越しにまるで手柄話みたいに公表しておきながら、第三者の情報とは…。こんな風情を擁護する市長も“同罪”ではないのか」―
図書館の運営やサ−ビスなどのソフト面を担当するアドバイザ−は富士大学の早川光彦教授(図書館学)である。コロナ禍の中での図書館のあり方など時宜を得た適切は助言(10月11日付当ブログ参照)を見ていると、さすがに“本の目利き”と感心させられる。一方で、「おやっ」と首を傾げたくなる局面も…。「図書館って、どんな場所?」というテ−マで開かれた第1回目WS(8月23日)で、早川教授は『図書館計画ハンドバック』と題する冊子を参加者全員に配布した。自身が執筆した「住民の願いを『かたち』にする図書館を!」という巻頭文はこう結ばれていた。「知識と情報は住民の幸せの基盤である。住民の願いを『かたち』にするために、このハンドブックが一助になることを願う」―
図書館に関する各種資料や「図書館に関する自由宣言」、関連法規など初心者に役立つ情報が満載…と読み進むうちに目が点になった。後半部分がいつの間に特定業者の図書館備品や設備などのカタログに姿に変えているではないか。そういえば、第3回WS(9月27日)の資料づくりの際、早川教授から「(図書館)家具」を追加するよう指示されたと担当職員が話していたことを思い出した。ふいに「ステ−クホルダ−」というかた苦しい法律用語が頭をよぎった。「利害関係人」と訳され、企業・行政・NPOなどの利害と行動に直接・間接的な利害関係を有する者を指す。とくに、公務員には利害関係人としての行動の制約がこと細かに定められている。たとえば、花巻市職員倫理規定(平成25年2月)には―
「職員は、次に掲げる行為を行ってはならない」(第5条)として、「利害関係者(人)から金銭、物品又は不動産の贈与を受けること」―など9項目にわたる「禁止行為」が挙げられている。当たり前の規定である。ところで、市側からアドバイザ−としての謝礼を受けながら、利害関係人つまり、特定業者の宣伝カタログをWSの参加者に配布するという行為…「私人(大学教授)だから、私企業の広告塔になるのは何ら支障はない」―。たとえば、こんな言い逃れが果たして、世間に通用するものなのかどうか。
ガバナンス(内部統制)とかコンプライアンス(法令遵守)などという小難しいことは言うまい。その前に物事には「道理」というものがある。この2人のアドバイザ−の振る舞いは私にはどうみても「道理にもとる」としか思えない。人はその力量の前にまず人間としての“資質”が問われるという意味で、私たちは残念ながら、アドバイザ−としての人材に恵まれなかったと言わざるを得ない。アッと驚く「新花巻図書館」構想の出自をめぐる物語は以上のような経緯をたどったことを最後に報告したい。もちろん、行政トップの“任命責任”は免れることはできない。コロナ禍のさ中の8月から10月まで足かけ3か月間にわたった計5回(若い世代の分も含めると計7回)のWSの、不本意ながらこれが私の総括である。
かつて、「ドウリズム」(道理主義)を公約に掲げた首長がこのまちにいた。戦後、花巻町長(当時)を2期務めた元日本社会党衆院議員で、党副委員長などを歴任した北山愛郎(1905―2002年)である。終生、中国の国民服(人民服)を愛用しながら、その思想以上に「道理」の大切を説いた姿が私の脳裏に刻まれている。母親の世代が町長選のたびに、「アイロ−さん、アイロ−さん」と叫びながら、選挙カ−の“追っかけ”をしていた光景を懐かしく思い出す。娘さんの郁子さんは『ドウリズムの政治』(2010年)というタイトルで父親の足跡を本にまとめている。
「トウイチさん、トウイチさん」という声は残念ながら、遠音(とおね)にも聞こえてこない……
(写真はWSで助言する早川教授=10月25日、花巻市葛の市交流会館で)