男やもめとお助け請負人:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ |
男やもめとお助け請負人
2019.04.24:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
▼この記事へのコメントはこちら
|
ゲストさんようこそ
合計 40人
■記事数
公開 3,361件
限定公開 0件 合計 3,361件 ■アクセス数
今日 790件
昨日 18,690件 合計 18,163,853件 |
「若い力と感激に/燃えよ若人、胸を張れ/歓喜あふれるユニホ−ム/肩にひとひら花が散る…」(佐伯孝夫作詞、高田信一作曲)―。2ケ月に一度、場末のスナックに、決して若いとは言えない男女の「若い力」がサックスの演奏に合わせて響き渡る。「…花も輝け希望に満ちて/競え青春、強きもの」と、私も一緒になって大声を張り上げている。70年以上も前に作られたこの国体歌を口にすると、あら不思議…やもめ暮らしの身も青春に逆戻りしてしまうではないか。歌の力って、すごいなあ。
「よかったら、聴きに来ませんか」―。今年初め、知人の佐藤加津三さん(62)から声がかかった。花巻市役所を定年退職し、いまは任用職員として釜石市役所で働いている。もう十数年来の付き合いである。私は定年後の60歳になって初めて、パソコンと向き合った。その当時、佐藤さんは役所全体のIT機器の保守点検をする仕事をしていた。鉛筆しか握ったことのない私にとって、この新兵器は未知との遭遇だった。故障続きのパソコンに向かって、悪態をつく日々…。そんな時、佐藤さんのことを知り、さっそくSOS。そうすると、あら不思議…どんな不具合も手品みたいに直してしまうのであった。
万事に控えめな人だから、佐藤さんがサックスを吹くことを知ったのは大分、後になってからである。「なに、ほんの趣味なもんで…」といつも謙遜した。定年後の一時期、私は知的障がい者施設の園長をしていた。ある時、世界的なサックス奏者の坂田明さんが当地でのライブに訪れた。そんな機会がめったにない利用者にぜひ、生の演奏を聞かせたかった。長い付き合いのある坂田さんはすぐに「オッケ−」とVサイン。施設内にフリ−ジャズの音響が炸裂した。その時の利用者たちの目の輝き!?クリスマスが近づいていた。利用者たちにあの音色をもう一度…。佐藤さんに「ぜひとも」とお願いした。玄人はだしの、佐藤さんのクリスマスソングがホテルの会場にこだました。忘れえぬ光景である。
「スタ−ダスト」「マンボNO5」「オ−ルウエイズ・ラヴ・ユ−」「宇宙戦艦ヤマト」「2億4千万の瞳」「天城越え」…。今年2回目のライブには老若10人以上が集まった。スタンダ−ドを含めた多様なメドレ−が狭いスナックを突き破るようにはね返った。この手づくりライブはもう20年以上、続いている。「それにしてもフィナ−レがどうして、『若い力』なんですかね」―。佐藤さんとマスタ−が顔を見合わせながら、言った。「それがねぇ、よくわからないだよね。でも、この歌って、元気が出るじゃないですか」。その通りだと思った。男やもめの「ウジ虫」退治には音楽こそが特効薬であることに納得、納得…。
そんなある時、今度は県外の知人から一冊の本が送られてきた。「あなたにピッタリだと思うから」と添え書きされた、そのタイトルはなんと『絶望名言』―。文学紹介者の頭木弘樹さんとNHKアナンサ−の川野一宇さんとの対談をまとめた、NHKの人気番組「ラジオ深夜便」の書籍化である。カフカやドストエフスキ−、ゲ−テ、太宰治、芥川龍之介、シェ−クスピア…名だたる文豪の「絶望」名言がびっしり詰まっていた。「絶望したときには、絶望の言葉のほうが、心に沁(し)みることがある」と頭木さん。たとえば、カフカのこんな言葉―。
「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」(『フェリ−ツェへの手紙』)―。「この言葉を読んだ時、ぼくは病院のベットで倒れたままだったわけです。ですから、すごく響きました。(最後のフレ−ズは)これはもう笑うしかないですね」と闘病生活が長い頭木さんは語っている。私もつられて一緒に笑ってしまった。何かがス〜ッと抜けていくような感じがした。ついでに、ともに自死することになる太宰と芥川の絶望名言から―。
「弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我(けが)をするんです。幸福に傷つけられる事もあるんです」(『人間失格』)、「あらゆる神の属性中、最も神のために同情するのは神には自殺の出来ないことである」(『侏儒(しゅじゅ)の言葉』)……これ以上の「絶望」の極はあるまい。凡人にはとても二人の真似などできない。じゃあ、「絶望を転じて、希望となす」―にはどうすればよいか。あれこれ考えているうちにふと、心づいた。
「若い力」(音楽)と「絶望名言」(文学)とを上手に調合すれば、…あら不思議、「希望の妙薬」がひょいっと、現れたりなんかしちゃって。「男やもめに蛆(ウジ)がわく」―。こんな境遇を気遣ってか、友人や知人たちがウジ虫退治にひと役買って出てくれる今日この頃である。ありがたや、ありがたや。ここで、お手を拝借〜「よ−お、パパパン、パパパン、パパパンパン」
(写真は熱演する佐藤さん=3月16日、花巻市内のスナックで)
《追記》〜ブログ休載のお知らせ
大型連休をはさんだしばらくの間、当ブログを休載させていただきます。「改元」フィ−バ−から、しばし逃避します。