最上義光歴史館/館長の写真日記 令和6年5月5日付け

最上義光歴史館
館長の写真日記 令和6年5月5日付け
 山形市で5月8日〜10日、「薬師祭植木市」が開催されます。熊本市・大阪市の植木市と並び日本三大植木市の一つとされています。
 さて、植木市で売り買いされる庭木というと、かつてはツツジなどが人気でした。母の実家では、わずかな庭に3段くらいの鉢棚をこしらえ、ツツジの鉢植えを50鉢くらい並べていて、植木市のたびに手頃なものを1、2株程度買っていたのでしょう。枝ぶりや花の柄の違いでいろいろ買っていたのでしょうが、小さい頃の自分には、全て同じにしか見えませんでした。盆栽のような作りこみをするわけでもなく、育つのに任せている感じでしたが、それでも買い置きの植木鉢が縁側の下にいくつもあり、植え替えに使う砂も一坪程度の小山ぐらいあり、自分は何の砂かもわからず、きっと孫のために砂場を用意してくれたのかと、ありがたく遊んだりもしていたのですが、そのうち猫の糞などが混じったりもしました。
 最近の植木市では多肉植物の寄せ植えなどはよくみかけます。あと植木市ではまだあまりみかけませんが、人気なのはテラリウムでしょうか。密閉されたガラス容器の中で水分が循環し、しばらく水を与えなくとも植物を育てることができます。容器の中には多肉植物とか、最近はコケも人気です。テラリウムであれば湿度管理もしやすく、そこに鉱石とか鉄道模型の人物フィギュアとかを組み合わせて楽しむ方もいるようです。またコケは、植木市ではコケ玉などが売られています。
 コケの世界はなかなか奥深く、「全国博物館園職員録」をみますと、国立博物館のみならず県立博物館でもコケを専門とする学芸員さんがいます。コケの研究者や愛好者は全国にいて、またコケの名所というのもあり例えば京都の苔寺が有名ですが、以前、青森の奥入瀬を旅行したときに、コケを観察するツアーというのに参加しました。そのガイドさんは若い方で、コケが面白くて面白くてたまらない、という感じの方でした。奥入瀬渓流には300種類以上のコケ植物が生息し、日本蘚苔類学会の「日本の貴重なコケの森」に選定されており、コケ観察ツアーには90分のライトと180分のディープのコースがあります。ルーペ片手に見て歩くのですが、自分はコケよりもルーペに愛着がわき、お土産にしっかり買って帰りました。このルーペは顕微鏡や望遠鏡で有名なメーカー品で、単品の他に「コケ観察セット」もあり、ルーペとともにスプレーボトルやコケ観察ガイドブック、ポーチなどがセットされています。コケがなくても気分がでます。
 山形市内にはコケを専門的に扱う会社があり、コケによる壁面緑化などを手掛けています。この会社では「富士の樹海コケ手作りセット」という約25cm四方の箱の中に樹海の複雑な色合いを楽しめるキットなども販売しています。もっとも、これに人物フィギュアを組み合わせてしまうのは、いかがなものかと。
 また、山形市に隣接する町には世界的な緞通メーカーがあり、コケ柄の絨毯があります。緑のまだら色の模様の柄で、なんとなくコケのモソモソ感が醸し出されていて癒されます。これは某国立競技場も手掛けたあの世界的な建築家がデザインしたもので、お値段も世界的な感じではあります。
 それでは最後に、いつものようにことわざを。「転石、苔(コケ)をむさず」ということわざがあります。" A rolling stone gathers no moss."(転がる石は苔を集めない。)というイギリスの諺が由来とのことです。実はこれがなかなかの曲者でして、場面や文脈によって意味が真逆になります。伝統を重んじるかの英国では、「頻繁に住所や職業を変えたりする人は成功しない」という意味でしたが、これが新天地の国アメリカでは、苔は否定的なものとなり、「活発に活動している人は、いつまでも古くはならない、新鮮だ」という意味になります。ということで、あのローリングストーンズは、イギリスでは風来坊とか根無し草となるのですが、アメリカでは活発で新鮮という評価になるのかと、どっちも合っているような。とにかく結構長い間、転がっています。もう、私が生まれた年から転がっています。
 日本の国歌には「さざれ石のいわおとなりて こけのむすまで」とあり、「小石が成長して大きな岩となり、それに苔がはえるまで」続いてほしいと願うものですが、この歌からは昨今、なんとなく「持続可能性」という語が想起させられ、すると現状維持ではだめなわけで、それこそ"like a rolling stone"というか、"How does it feel? "というか、なぜかボブ・ディランに行き着いてしまうのですが、あ〜、グダグダですみません。

(→館長裏日誌へ)
2024/05/05 17:15 (C) 最上義光歴史館
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