最上義光歴史館/館長の写真日記 令和5年11月18日付け

最上義光歴史館
館長の写真日記 令和5年11月18日付け
 当館では11月26日まで特設展示「武士の晴れ姿〜甲冑と戦の様相〜」を開催しています。さて今、甲冑業界の最大の関心事は、オータニさんが移籍する場合、兜パフォーマンスはどうするのか、いわゆる「どうするオータニ」問題かとは思いますが、あまりふざけたことばかり書くと、当館学芸員から相手にしてもらえなくなるので、甲冑についてちょっと勉強してみました。
 甲冑(鎧兜)は、時代により戦法も変わりそれにあわせ変化していきました。源平の時代は1対1で名乗り合って矢を打ち合う「騎射戦」であり矢の防御が目的でしたが、次第に「徒歩戦」(かちせん)のための軽快な動きができる甲冑が求められ、戦国時代後期には鉄砲戦を前提とした甲冑となってきます。甲冑はまた、実用性とともに威厳を示すことも必要で、戦闘以外でも首実検や儀式などで着用されました。
 甲冑の主な変遷は、大鎧、胴丸、腹巻、腹当、当世具足の順となるとのこと。
「大鎧」は、見た目が華やかで、馬上で矢を射るための機能と、矢からの防御に特化しています。「胴丸」は、胴を丸く包むような形で、肩と腰で重さを支え、動き易いものになっています。「腹巻」は胴丸を簡易にしたものですが、左右合わせの胴を胴丸と呼び、背引合わせの胴を腹巻と区別しているようです。さらに造りの違いで「仏胴」、「横矧胴」、「縦矧胴」、南蛮貿易でもたらされた西洋風の「南蛮胴」などがあります。
 鉄を多用すると重量が増したので,胴については横板が段状になった「最上胴」や「桶側胴」が現れました。「最上胴」は出羽の最上で多く作られたことから名付けられたもので、横に長い一枚板を五枚つないだ頑丈で簡易な構造が特徴です。今回の展示でもこの「最上胴」を展示しています。
 「腹当」はさらに簡易なもので、胴の前面(胸から腹、大腿部)とわずかに左右を防御している物です。「当世具足」は「今風の甲冑」という意味で、兜と胴に加え、籠手(こて)や佩楯(はいたて)、臑当(すねあて)などの小具足を含めた、全身を隙間なく覆うものです。当世具足は、戦国武将達が城下にお抱えの甲冑師を住まわせ、それぞれ特注の甲冑を制作させたことから多様なものがあります。技法を凝らした甲冑は、芸術品としても評価されており、戦功の褒美とされることもありました。徳川家康はイギリス国王やオーストリア皇帝にも、蒔絵などで装飾された豪華な具足を贈っています。
 さて、「北の関ヶ原」こと「慶長出羽合戦」では、最上義光とその援軍に駆け付けた伊達政宗、それに対する上杉景勝とその総大将の直江兼続が関係するわけですが、皆様、御承知のとおり、それぞれが着用した甲冑もまた有名です。
 まずは、伊達政宗の「鉄黒塗五枚胴具足」(てつくろぬりごまいどうぐそく:仙台市博物館蔵)。全身真っ黒のコーディネートで、5枚の鉄板を繫ぎ合わせて隙間なく包む五枚胴で防御力が高く、政宗はこれを気に入っており、仙台藩の歴代藩主やその家臣らも着用したことから「仙台胴」とも呼ばれるようになりました。また、筋状の繫ぎ目が62ある「六十二間筋兜」はあの大型の三日月の前立で有名です。当時の戦国武将の間には、月や星に仏の加護を願う信仰があったそうです。当館の今回の展示でも、伊達ゆかりの品ではありませんが「六十二間筋兜」を展示しています。
 上杉景勝が所用していた鉄黒漆塗紺糸縅異製最上胴具足(てつくろうるしぬりこんいとおどしいせいもがみどうぐそく:新潟県立歴史博物館蔵)は、あえて言及する必要はないのですが「最上胴」です。兜は「卍」の前立を猪が支えていて、この猪は戦勝を司る神「摩利支天」を表しています。摩利支天は陽炎を神格化した1柱で、陽炎が「焼けず、濡らせず、傷付かない」ことから、自在の通力を持つとされています。
 直江兼続の金小札浅葱糸縅二枚胴具足(きんこざねあさぎいとおどしにまいどうぐそく:上杉神社蔵)は、鎧に「愛」の文字をあしらったアレです。直江兼続が兜に「愛」を掲げた理由には諸説があり、軍神として崇められていた「愛染明王」や「愛宕権現」の頭文字を取ったとか、上杉家の施政方針であった「民を愛し、大切にする」の意味だとかと言われています。
 最上義光については、銃撃の跡が残っているという貴重な兜があるのですが、残念ながら、義光が戦場で着用した鎧というのは見当たりません。
 まずはこの4つの兜を揃えるだけでも、なかなかな企画展示となるわけですが、仙台や米沢の博物館では可能でも、施設事情により当館ではできません。代わりにペーパークラフトの兜であれば、全てをご自宅でしかも無料で揃えることができます。当館や各関係施設等のホームページからダウンロードできます。なお、最上や伊達などは甲冑のペーパークラフトもあり、当館売店でも販売しております。一領、いや1セット、最上は1,000円、伊達は1,300円です。秋の夜長にいかがでしょうか。

 
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→ 館長裏日誌
2023/11/18 17:15 (C) 最上義光歴史館
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