うれしい書評:ヤマガタンAnnex|山形の農業〜農林水産

ヤマガタンAnnex|山形の農業〜農林水産
うれしい書評

 遠くにお住まいの方から拙書への書評をいただきました。
お読みいただければ分かりますが、とても丁寧に言葉をつづられる方です。
また、評者の感性の豊かさ、そのみずみずさが書評を通してにじみでています。このような方に書評を書いていただき、かつ望外の評価をいただきましたこと、光栄におもいます。(つい、いつになくあらたまった口調になってしまいます。)


「玉子と土といのちと」。
素晴らしい本でした。二回読みました。
「今度生まれるなら菅野さんちの鶏になりたい」。
その言葉がどれほどの意味を持ったものなのか、
ここでは、それが私なぞの想像をはるかに超えた大きなものであったことを教えられます。
この本はなによりも、学者が組み立てた理論や啓発の書ではなく、
「ドブロクに手作りソーセージ」という幸せに憧れる、大地に野太く根を張った男の実践の書であることです。その面白さ、迫力、驚き。そして読み終えた後に深く広がるのは、この本が見事な思想の、哲学の、教育の、食文化の、自然や風土の「書」であるという思いです。

私がいちばん感動したのは、「山の神様」の話です。
泥水を飲んで、地域の微生物を取りこんでいた鶏たち。
「山の神様」につながるこの話は、神秘的ですらあります。
でもそれは同時に、菅野さんの鶏たちの野生味の健在さを改めて感じる場面でもありました。
微生物・発酵。これは本当に太古の時代へとつながる生命の鎖なのですね。
母の田舎から時々自慢の沢庵を送ってもらうのですが、家の改築で、沢庵の居場所だった納屋が取り壊され、別の場所に。そうしたら、沢庵の味はまるで変わってしまいました。常在菌の繊細さ、デリケートさを痛感しました。
 それにしても菅野さんの発酵への探究心は素晴らしかった。鶏たちへの、玉子への、そしてすべての野生のいのちへの深く謙虚な愛情を感じずにはいられませんでした。
「土」の話も教えられることの多い、感動的なものでした。私もあの4年生の教室にいたかったなぁ。土と砂を分けているもの。それは植物や動物たちの遺体が含まれているかどうか。解っていそうで、ぼんやりしていた分かれ道。これは土からの強烈なメッセージですね。私たちは本当に「土」そのものを食べているんだなぁと、そしていのちの連鎖を「土」から実感するというユニークさ。
「菅野先生」ならではの深く、そしてワクワクする授業でしたね。

それにしても、ヒナから若鶏になり、玉子を産んで、換羽で再び若返り、産卵し、時には獣に襲われ、やがて命を終えてゆく。その間に一面の雪に覆われる冬がきて、春が来て。
その鶏たちを生き物として豊かに育て、危険から守り、「エサ」などとは呼びたくないような心のこもった「日替りランチ」を与える菅野さんや春平さんがいる。
そう考えると、その子たちの産んでくれる玉子は、なんと、なんと貴重なものであるか。
 生まれて、恋をして、せっせと働いて、いのちを終える鶏たち。そのいのちを全うした鶏を、ためらわずに、美味しくいただく菅野さん。
愛情を持って育てたからこその行為。「食べる」ことで完結するこの関係は、しかし、まだまだ未来へと繋がるのですね。
やがて、鶏たちの血肉は菅野さんの身体を通って、大地へと還ってゆく。
大きな宇宙の食物連鎖の中で、一瞬のいのちを、輝やかせて。
(私も、とてもとても愛する人がいたら、その人の遺灰を食べたいと思う)

タヌキやキツネと闘う話も、息を呑みました。
彼らも生きねばならない。
しかし鶏たちが一瞬にして襲われるこの脅威とは、
絶対に闘わねばならない。
生きていくとは、考えようでは残酷な悲しさそのものですね。
「いただきます」という、日本ならではのこの言葉は、神さまに向けられたものではなく、こうして与えていただいた幾千ものいのちへの感謝の言葉ですよね。
この話が胸を打つのは、キツネやタヌキたちと、菅野さんが同じ環の中に居ることです。どちらも必死で生きている。その「必死」同士の闘いだからです。
人間という高みに立って闘おうとはしないから、農薬を浸した食パンは置かない。
同じ環の中に居る仲間だからこその、闘いの作法を、菅野さんは守るのです。

ああ、こんなに長くなってしまった。ごめんなさい。読むのも大変ですよね。
もうじき終わります。

菅野さんの優しさは、今さら言うこともないほどなのですが、
鶏たちの辛さを身をもって体験する断食の実行には、
優しさを貫く強靭な意志を感じました。
断食って、すこし憧れがあるのです。

「地域」と菅野さんの関係というか、地域への菅野さんの眼差しについても、
少し感想があったのですが、長くなってしまうので、またの機会にしますね。
母上の「ダイエットでやせようとする百姓なんかいるもんか。たくさん食え。
百姓は働いてやせるもんだ」この言葉が可笑しくて、そして何といい言葉かと、
何度も読み返しました。
「サメ子」の話も、おなかを抱えて笑いました。誰にもこういう武勇伝(?)があるのですね。

最後に、山羊の「ぴょん」の話は、たまらなく好きでした。
菅野さんと「ぴょん」との5mの距離。
抵抗しつづけるその5mに、切ないほどの共感を覚えます。
山羊はつながれているものだと思っていた、私です。

素晴らしい本を読ませていただきました。
本当にありがとうございます。
たくさんの人に読んで欲しいと、切望します。

  猛暑の夜に  





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