▼大橋仁写真展「いま」ギャラリートーク2006/08/21 13:09 (C) 美術館大学構想
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■写真上:大橋仁「いま」展会場風景
■写真下:右から大橋仁氏、宮本学芸員
2006年8月9日14:00-15:30/こども劇場 撮影:加藤芳彦
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夏の「TUADオープン・キャンパス」企画の一つとして、こども芸術教育研究センターで、写真家・大橋仁さんのギャラリートークが開催されました。僕も建築コースの公開コンペ審査の合間をぬって、インタヴュアーとして参加、写真集『いま』(青幻舎)についての対話およびスライドショーをおこないました。
トーク会場となったこども劇場の周囲には、一週間前から『いま』の写真の中から20点ほどが、大橋さん自身の手による構成で展示されていました。その中で、劇場の入口に掲げられた大延ばしのプリントが、出産シーンを真正面からとらえたショッキングな写真であったために、事務局の中には、こども芸大に通学する児童や保護者の反応を懸念する声もありました。こども劇場は、胎内とイメージした球形をしています。その入口(出口)に出産シーンの写真を高々と掲げるのが、大橋さんの意図するところだったのですが。
しかし、いざフタを開けてみると、こどもたちは「これ!赤ちゃんが生まれてくるところ!」と、いたって自然な反応。お母さん方は「生んでいる本人は見ることのできない瞬間なので驚きました。ウチの子もこんなふうに生まれてきたんだ…」、「出産はもっと奇麗なものだと思っていたのですが、こんなに壮絶な、命の切実さにみちた瞬間なのですね」等々、深いインパクトを受けたようです。
本学の徳山詳直理事長もご覧になり、ずいぶん長い時間、写真集に見入っておられ「感激した。〈こども芸術教育〉を掲げるなら、こういう視点をきちんと示さなければならない。京都造形大のこども芸大でもぜひ開催しよう!」とおっしゃっていました。
ギャラリートークには、展覧会を通して写真家・大橋仁の眼差しに惹かれた人々が集まり、写真家の言葉に耳を澄ませました。中には午前・午後の2回とも参加した学生も見受けられました。対話の冒頭では、インタヴュアーとして聞き役に徹しなければならない僕も、大橋さんに質問したいことが沢山あって、つい長々と私的な感想に夢中になってしまい、後で「7:3の割合でしゃべっていたよ」とトークを聞きに来ていた家内に指摘されてしまいました。私事ですが、僕たち夫婦も3月に第1子が誕生予定で、それだけに写真集『いま』の世界観は気になるところであったのです。
トークの話題の中心は、やはり分厚い写真集の3分の1を占め、克明に写し取られている出産の写真についてでした。
実際の分娩室は、母親やその家族は勿論のこと、医師、看護士など大勢の人がいるはずなのですが、写真にはそれらの人々の姿は登場しません。ただ取り上げられたばかりの青黒い赤ん坊が、生きているのか、死んでいるのかもわからないような命の境界点で人々の手に抱かれ、写真家の眼差しと向き合っています。大橋さんはこの点について「ある特定の個人の物語のように撮りたくはなかった。ただ生物としてのヒトの誕生の瞬間を写したかった」と語っていました。
前作『目の前のつづき』で、自らの家族の死と再生の記録を淡々と撮影し、荒木経惟に続く「私写真」の旗手としてデビューした大橋さん。
2作目となる『いま』では、あえて個人的な被写体を排除し、「出産」という誰もが経験したダイナミックな命の瞬きをテーマに選ぶことで、その眼差しは、見る側の記憶とリンクしていきます。
スクリーンに次々と投影されるスライドを見ながら、僕は大橋さんに「この赤ん坊は、かつての大橋さんであり、僕でもある気がします」と話していました。
美術館大学構想室学芸員/宮本武典
※トークの内容は、こども芸術教育研究センターの紀要に後日まとめられるそうなので、その時にまたお知らせします。