▼言葉、果つる今…イーハトーブの宙(そら)に詩人の声(言霊)を〜日本人ファーストの嵐の中で、「ゴットン、ゴットン」!!??
「七つ八からカンテラ提げて/坑内下がるも親の罰(バチ)、ゴットン」「親の因果が子にまで報い/長い坑道でスラを引く、ゴットン」…。60年以上前の記憶の地層が崩れ、まるで地底(じぞこ)の闇にぐいぐいと引き込まれていくような気持になった。駆け出し記者だった当時、この“ゴットン節”は日本一の石炭産出地だった筑豊の閉山炭住の一角からもれ聞こえてきた。「筑豊文庫」の看板を掲げたこの家の主の記録作家、故上野英信さんは酔っぱらうと必ず、この仕事唄を口ずさんだ。「まず、地獄ば見んことには…」 ”排外主義”をあおる参院選や迷走を極める足元の新図書館問題、議員報酬アップ騒動…。まるで、魂を失ったような言葉の集中砲火の中、まちの中心部に「ゴットン、ゴットン」のリズムが響いた。筑豊の中心部の飯塚市在住の詩人で、ゴットン節の唄者としても知られる「友理(ゆうり)」さんと「ガレキの言葉で語れ」(壷井繁治賞)などの代表作がある岩手県詩人クラブ会長の照井良平さんとの初コラボ。「星座の森の誓い」(照井作)と「虫じゃ!皮膚科老人の銀河〜」(友理作)の二つの自作詩がぶっつけ本番で交錯した瞬間、私は地底の闇と銀河宇宙とが同化したのではないかと錯覚した。 「7歳ぐらいの時かな、(常田富士男さんが朗読した)『春と修羅(序)』を聴いた。そのまま、宇宙の彼方に連れていかれるような感動を覚えた」―。友理さんは朗読会の冒頭この序を紹介しながら、こう続けた。「なぜ、人は宮沢賢治を愛するのか。それは彼が人々の本当の幸いを常に願い、その純粋な気持ちだけで言葉を紡いだ人だからではないでしょうか」ー。「偉大なるエゴイスト」とも呼ばれた上野さんの著書―『追われゆく坑夫たち』の中にこんな一節がある。 ●「地獄極楽、いってきたもんのおらんけんわからん。この世で地獄におるもんが地獄じゃ」。 娘のころは父につれられて、結婚してからは夫とともに、うまれた娘が大きくなるとその娘をつれて、一生を暗黒の地底で働きつめたひとりの老婆がいつもこう呪文のようにつぶやいていた言葉を、私は忘れることができない。私のききあやまりではない。彼女は決して「この世の」とはいわなかったし、まして「この世の地獄が地獄じゃ」などとはいわなかった。彼女はあたかも「この世で悪魔を見るものが悪魔だ」とでもいうような調子でたしかに「この世で地獄におるもんが地獄じゃ」といっていた。そうだ、私にとって問題であるもの、それは「この世の地獄」ではなくて、「人間そのものとしての地獄」であり「地獄そのものとしての人間」である● 友理さんは1987年、上野さんが64歳の若さで旅立ったちょうど1週間後、まるで生まれ変わりのようにこの世に生を受けた。「そう、英信さんの魂はずっと、私の心の中に生き続けています」と友理さん。絶筆のメモ用紙に上野さんはこんな言葉を残して、息を引き取った。「筑豊よ/日本を根底から/変革するエネルギーの/ルツボであれ/火床であれ」―。私は友理流のゴットン節に耳を傾けながら、「筑豊」を「イーハトーブ」に置き換え、「ゴットン、ゴットン」と一人うなずいていた。「この世で地獄におるもんが地獄じゃ。今もそう、何も変わってない。いやますます、地獄の底は深くなっている」と…… (写真は息子さんを背中であやしながら、ゴットン節を唄う友理さん。右が照井さん=7月13日午後、花巻市上町の「賢治の広場」で) ≪追記ー1≫〜賢治さんのお導き!! ブログを読んだという友理さんから、さっそくメールが届いた。酷暑といや〜な時代の空気に囲まれ、精神がおぼつかなくなっていた矢先だけに友理さんの「聲(こえ)」がこの愚鈍(ぐどん)を目覚めさせてくれたようだった。感謝を込めて、以下に転載させていただく。なお、(田代)友理さんは新図書館のオンライン署名にも賛同を寄せて下さった。 ※ ただいま(16日午後1時半)、羽田空港におります。まさか、東北の地で筑豊にご縁のある方にお会い出来るとは思いもしませんでした。先祖たち、何かもっと大きな存在の采配を感じました。宮沢賢治に出会っておそらく30年、「聲ノ道」を歩き始めて15年になります。これまではただ、聲を撃つことばかりに必死でしたが、ここ2年くらいからふと、「人間ノ想ヒ」を聲に載せたい、表現したいと思うようになりました。これからも聲ノ道、詩ノ道、そして人ノ道を、地に足をつけて歩んでまいりたいと思います。これからも何卒よろしくお願い申し上げます(註:「聲の道」は詩人・朗唱家の天童大人さんがプロデュースする、肉聲の復権を目指すプロジェクト。日本を代表する詩人、故白石かずこさんの聲からスタートし、現在16年目) ≪追記―2≫〜賢治と「日本人ファースト」、そして「人間ファースト」…!? 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)―。賢治が世界平和(世界ファースト)を訴えた「イーハトーブ」の地にも「日本人ファースト」の波が押し寄せつつある(13日付当ブログ参照)。その一方、日本列島ではクマの出没が相次ぎ、死傷者も出ている。日本人ファーストならぬ「人間ファースト」に怒ったクマたちの”反乱”なのかもしれない。 猟師の小十郎とクマとの交感を描いた作品こそが、賢治の代表作『なめとこ山の熊』である。アイヌ民族に伝わる伝統的な儀式―イオマンテ(熊の霊送り)を裏返した、クマたちによる「小十郎の霊送り」とも読み取れる重厚な物語である。だからこそ、この地から“イーハトーブ・ルネサンス”(真の意味の文明開化)の狼煙(のろし)を挙げたいと思う。友理さんのゴットン節を聴いて、その思いを強くした。筑豊の”火床”をイーハトーブへ…。ソーシャルディスタンス(社会的距離)の大切さを学んだのはコロナ禍の「人間の側」ではなかったのか。 ≪追記―3≫〜筑豊とチョン靴“と「日本人ファイースト」と!!?? いまや、時流に乗った感がある参政党党首の発言内容はほとんどが荒唐無稽なので極力、聞き流すことにしているが、三重県四日市市で飛び出した“バカ・チョン”発言は到底、看過することはできない。当人はこの差別発言をすぐに撤回したらしいが、私の脳裏にはある戯(ざ)れ歌がとっさによみがえった。 「朝鮮、朝鮮 パカにすな〜同じメシ喰ってどこ違う〜足の先がちょっと違う」―。新聞記者として、初めて「筑豊」に足を踏み入れた時、先の尖がった「朝鮮靴」をチョン靴“と揶揄(やゆ)してこう呼んでいることを知り、ショックを受けた。そんな一角に炭鉱の汚染水が流れ込み、周囲から「地獄谷」と蔑(さげす)まれる谷底があった。朝鮮人や被差別部落民が肩を寄せ合って暮らす小さな集落だった。 「弓/長」という表札を掲げた一軒家があった。本名は「張」さん。「強制的に名前を変えさせられた時(創氏改名)、親から受け継いだ名前を引き裂かれたくなかった」と張さんは唇をかみしめながら、言った。近くの寺の納骨堂には炭鉱の事故や拷問、衰弱などで異国に没した同胞たちの遺骨がホコリにまみれて放置されていた。ほとんどが戦争による労働力不足を補うため、強制連行された朝鮮人や中国人だった。今次の参院選ではとりわけ、「移民問題」に関心が集まっている。私はいま、頭蓋骨がはみ出した骨箱の山を凝視し続けている。 ≪追記―4≫〜映画「国宝」と日本人ファースト!!!??? 在日コリアン3世の李相日監督の映画「国宝」(吉田修一原作)が大きな関心を呼び、社会現象化しつつある。日本の伝統芸能である歌舞伎を見事に描き切った、その文化融合の成果に惜しみのない拍手が送られているのだと思う。そういえば、クリント・イーストウッド監督の西部劇「許されざる者」のリメイク版(2013年)にアイヌ民族を登場させたのも李監督だった。 その時、アイヌ青年の主人公役に抜擢されたのが知友の通称「デボ」(秋辺日出男)だった。先月下旬、デボは沖縄で開かれたイベント「戦後80年―これからのアイヌとウチナーンチュ」の講師に招かれた。「最近のヤマト(ニッポン)、どこか狂ってますね」とそのデボからラインがあった。「排外主義」が大きな争点になっている参院選の投開票が明日20日に行われる。この節目の日にこそ、満を持していた「国宝」を観てこようと思う。 ★オンライン署名のお願い★ 「宮沢賢治の里にふさわしい新花巻図書館を次世代に」―。「病院跡地」への立地を求める市民運動側は七夕の7月7日から、全世界に向けたオンライン署名をスタートさせた。イーハトーブ図書館をつくる会の瀧成子代表は「私たちは諦めない。孫やひ孫の代まで誇れる図書館を実現したい。駅前の狭いスペースに図書館を押し込んではならない。賢治の銀河宇宙の果てまで夢を広げたい」と話している。 「わたくしといふ現象は/仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明です/(あらゆる透明な幽霊の複合体)」(『春と修羅』序)―。賢治はこんな謎めいた言葉を残しています。生きとし生ける者の平等の危機や足元に忍び寄る地球温暖化、少子高齢化など地球全体の困難に立ち向かうためのヒントがこの言葉には秘められていると思います。賢治はこんなメッセージも伝え残しています。「正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである。われらは世界のまことの幸福を索(たず)ねよう、求道すでに道である」(『農民芸術概論綱要』)ー。考え続け、問い続けることの大切さを訴えた言葉です。 私たちはそんな賢治を“実験”したいと考えています。みなさん、振るって署名にご協力ください。海外に住む賢治ファンの方々への拡散もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。 ●オンライン署名の入り口は以下から https://chng.it/khxdhyqLNS ●新花巻図書館についての詳しい経過や情報は下記へ・署名実行委員会ホームページ「学びの杜」 https://www4.hp-ez.com/hp/ma7biba ・ヒカリノミチ通信(増子義久) https://samidare.jp/masuko/ ・おいものブログ〜カテゴリー「夢の新花巻図書館を目指して」 https://oimonosenaka.seesaa.net/
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2025.07.16:masuko
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