夢の図書館を目指して…「甲論乙駁」編(その5)〜キラ星の犖治人脈図瓠Г呂覆瓩い函担篌蠍花巻市のコミュニティ

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夢の図書館を目指して…「甲論乙駁」編(その5)〜キラ星の犖治人脈図


 

 「ぼくの好きな宮沢さんの『雨ニモマケズ』という詩が学校の天井に貼ってありました。ぼくはいつでもその下でそれを眺めていました。これはどういう人で、どういうことを考えていたかということを、毎日のように思っていました。こんな人に俺もなれるんじゃないかと思ったこと自体が、もうお話にならない。ばかげた青春のいたずらだと思います」―。評論家、吉本隆明さん(1924−2012年)の開口一番に私は思わず、腰を抜かしそうになった。戦後最大の思想家ともいわれた“巨人”はこう、続けた。「ぼくはこれまで、いろんな人の悪口を言ってきましたが、言わなかった人っていうのは、宮沢賢治ぐらいです」

 

 自著に『宮沢賢治』(1989年)や『宮沢賢治の世界』(2012年、没後刊)を持つこの巨人は、私たちの世代にとっては思想界の旗手ともてはやされていた。とくに、「遠野物語」や「古事記」に光を当てた代表作『共同幻想論』(1968年)はまるでバイブル視されて、回し読みされた。車いすに身を沈めたその人が目の前で自在な“賢治論”をぶっている。時はさかのぼること14年前の「宮沢賢治賞・イ−ハト−ブ賞」の授賞式…吉本さんは2009年、第19回賢治賞を受賞した。

 

 「宮沢さんははじめっから、関係は横に求めることよりも縦に求めようじゃないか。つまり、自分は銀河系の一員である。銀河系の、地球をめぐらしている太陽系の中の陸中のイ−ハト−ブなんていうふうに宮沢さんは言っている。となりの人と関係してというよりも真っ先に、人は天の星と関係していると考えている。宮沢さんの思想というのはそこから生まれてきたんです」―。受賞あいさつを聞きながら、この巨人をしてこう言わしめる「賢治」という存在の大きさに逆に圧倒されそうになった。

 

 「この土地で『なぜ20年も働いてきたのか。その原動力は何か』と、しばしば人に尋ねられます。人類愛というのも面映(おもはゆ)いし、道楽だと呼ぶのは余りに露悪的だし、自分にさしたる信念や宗教的信仰がある訳でもありません。良く分からないのです。でも返答に窮したときに思い出すのは、賢治の『セロ弾きのゴ−シュ』の話です」―。3年前、アフガニスタンでテロの凶弾に倒れた医師の中村哲さん(享年73)は2004年、第14回イ−ハト−ブ賞を受賞。現地から「わが内なるゴーシュ、愚直さが踏みとどまらせた現地」と題したこんなメッセ−ジを寄せた。

 

 中村さんの母方の伯父は作家の火野葦平で、外祖父は日本有数の炭鉱地帯・筑豊の荷役を一手に請け負ったヤクザ(任侠)の血を引く玉井金五郎である。火野の長編小説『花と竜』は父親の玉井をモデルにした作品で、映画化もされた。受賞後、中村さんが講演のために当地を訪れたことがあった。質問の段になって、私は手をあげた。「中村さんの中にはヤクザの血が流れているんじゃないですか。ぶれることのない姿勢を見ているとそうとしか思えないんですが…」―。内心、ぶしつけな質問かと思ったが、ひげ面の中村さんはニャッと笑って答えた。「実は私もそう思っているんですよ」

 

 「荒野に希望の灯をともす」―。井戸や用水路を掘り、アフガンの荒地に緑をよみがえらせた中村さんの35年間の記録が昨年、映画化された。絶筆となった『わたしは「セロ弾きのゴ−シュ」』(2021年10月、没後刊)は自らをゴ−シュの“愚直さ”と重ねた自画像ともいえる。それにしても、賢治が蒔(ま)いた「マコトノクサノタネ」(「花巻農学校精神歌」)が人知を凌駕する幾多の人材を生み出してきた事実に瞠目させられる。キラ星のような「賢治人脈」の一端を「宮澤賢治賞・イ−ハト−ブ賞」の受賞者の中から、以下に紹介する。たとえば、”銀河鉄道始発駅”みたいな人脈コーナーを設置すれば、「イ−ハト−ブ図書館」の売りになること請け合いである。

 

 1991年に創設された二つの賞の受賞者は奨励賞を含めると、賢治賞が68個人・団体、イーハトーブ賞が65個人・団体の計133に上る。

 

 

・高木仁三郎(物理学者)〜1995年第5回イ−ハト−ブ賞

・井上ひさし(作家)〜1999年第9回同賞

・池澤夏樹(作家)〜2003年第13回賢治賞

・中村哲(医師)〜2004年第14回イ−ハト−ブ賞

・高橋源一郎(作家)〜2006年第16回賢治賞

・ロジャ−・パルバ−ス(作家、翻訳家)〜2008年第18回同賞

・吉本隆明(評論家)〜2009年第19回同賞

・むの たけじ(ジャ−ナリスト)〜2012年第22回イ−ハト−ブ賞

・冨田勲(シンセサイザ−奏者)〜2013年第23回賢治賞

・藤城清治(影絵作家)〜2014年第24回同賞

・高畑勲(アニメ作家)〜2015年第25回イ−ハト−ブ賞

・色川大吉(歴史家)〜2017年第27回同賞

・北川フラム(ア−トディレクタ−)〜2019年第29回賢治賞

・今福龍太(文化人類学者)〜2020年第30回同賞

・毛利衛(宇宙飛行士)〜2021年第31回イ−ハト−ブ賞

 

 

 

 

(写真は故中村哲さんの足跡を記録した映画ポスタ−=インターネット上に公開の写真から)

 

 

 

《追記》〜人生の羅針盤

 

 私が新聞記者として初めて遭遇した最大の出来事は「三池炭鉱炭じん爆発事故」(1963年=福岡県大牟田市)で被災し、重篤な後遺症に苦しむ患者たちの取材だった。458人が死亡し、839人が不治の病と言われた「一酸化炭素(CO)中毒」に侵された。九州大学医学部を卒業した中村さんがその時、若き精神科医の研修生として、患者の治療に奔走していたことをあとで知った。当時、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の現場で、互いにすれ違っていたかもしれない。いま思えば、その時の運命的な”出会い”が6歳年下ながら、私が彼を人生の師と仰ぐきっかけだったように思う。故中村医師のそれが賢治、いやゴ−シュであったように…

 

 

 

 


2023.03.06:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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