是枝監督と「万引き」論争:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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是枝監督と「万引き」論争


 

 「公権力とは距離を保つ」―。映画「万引き家族」でカンヌ国際映画祭の最高賞(パルムド−ル)を受賞した是枝裕和監督のこの発言が各方面で波紋を呼んでいる。きっかけは受賞後の6月7日、文部科学省が祝意を伝えたい意向を示したのに対し、同監督は自身のサイトでこう述べたことだった。「映画がかつて、『国益』や『国策』と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような『平時』においても公権力とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています」(6月13日付当ブログ「万引き家族―そして、地獄谷とドロボ−部落と」参照)

 

 この映画には文化庁所管の独立法人・日本芸術文化振興会から2千万円の助成金が出ている。「国の補助金を使いながら、公権力と距離を置くとは何ごとか」、「国民の税金を使って、日本の恥部を描く反日映画を製作した」…。ツイッタ−上にこんな批判が殺到した。文化・芸術に対するナチスドイツの介入を教訓にした「ア−ムズ・レングス」と呼ばれる原則がある。「公権力は援助するが、芸術表現の自由と独立性は維持する、いわゆる『金は出すが口は出さない』原則」である(6月18日付「朝日新聞」―。こうした批判について、是枝監督はこう反論する。「補助金をもらって政府を批判するのは真っ当な態度なんだ、という欧州的な価値観を日本に定着させたい。…公金を入れると公権力に従わねばならない、ということになったら、文化は死にますよ」(6月25日付同紙)

 

 私がこうした批判以上に驚かされたのは、映画や小説、演劇など芸術作品に対する読解力や想像力の目を覆いたくなるほどの劣化である。”万引き(拾われる)”されてきた兄妹が雑貨屋で“家業”の訓練をする場面がある。店主(柄本明)はそれまで見て見ぬふりをしてきたが、ある時、ガラスケースからゼリ−棒を取り出しながら、こうつぶやく。「これやる」、「そのかわり…、妹にはさせるなよ」―。数日後、店先には喪中の張り紙が…。万引きの指南役だった兄にとって、あの時のつぶやきはきっと「遺言」だったにちがいない。万引き家族がそれぞれの新たな歩みに向けた一歩を踏み出すことになる重要なポイントの部分である。

 

 是枝監督はこれまで「分かりやすさ至上主義」に警鐘を鳴らしてきたと言われる。「だって、世の中って分かりやすくないよね。分かりやすく語ることが重要ではない。むしろ、一見分かりやすいことが実は分かりにくいんだ、ということを伝えていかねばならない。僕はそう思っています」と同上紙で語っている。善は「悪」を宿し、悪は「善」をはらむ―私はこの映画を見ながら、「分からなさ」の大切を肝に銘じ直したい思いがした。「それこそが芸術文化の醍醐味ではないか」と―。6月22日付の当ブログで紹介した哲学者で文筆家の花崎皋平(こうへい)さん(87)から「あの映画のブログは面白かった」と手紙が届いた。こんな内容だった。

 

 「私も以前、フィリピン・マニラのスラムに滞在したことがあります。住民の半分は窃盗や売春で暮らしている人たちで、電気は盗電、水道も同様で出会った女性たちは日本にキャバレ−などに稼ぎに行くといって、松田聖子の歌をおぼえていました。そうした住民たちの中に、マルコス独裁とたたかう軍事組織のメンバ−がいるといったぐあいで、居ごこちはとてもよかったです」―。6月13日付の前掲ブログで偽装妊娠や目が不自由だとウソをつき、国の扶助費をだまし取っていたことを出来事に触れた。その谷の住人で日本に強制連行された「弓長(ゆみなが)」さん(朝鮮名「張」さん)の不幸、つまり日本の植民地主義の罪業について、深く認識している日本人もまた、この谷の住人だったことに改めて思いが至る。

 

 すでに当ブログで言及したように、花巻市の上田東一市長は私の政務活動費の使途について、「本ばかり読んでいないで、書斎を出て外の意見にも耳を傾けるべきだ」という暴言を吐いた。是枝映画に対する軽薄・卑俗なな批判と同じ構図である。「二元代表制」を踏みにじっているという点ではさらに罪は重い。この人にはぜひ「ア−ムズ・レングス」原則の精神を学んでほしいものである。

 

 

(写真はパルムドールを受賞した是枝監督=インタ−ネット上に公開の写真から)

 


2018.07.02:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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