霊魂との交信、そして人心の荒廃とは…:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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霊魂との交信、そして人心の荒廃とは…


 

 「3人が道に迷ったら困る。だから被災した元の場所に家を建てなければ…」―。東日本大震災で母親と妻、一人娘の3人が行方不明になっている白銀照男さん(69)がほぼ全滅した大槌町安渡に約7年ぶりに自宅を再建した。白壁の瀟洒(しょうしゃ)な2階建て。玄関を入ってすぐの6畳間が仏間と照さんの居間兼寝室で、震災の1年前に亡くなった父親と「3・11」以降、行方の分からない3人の”遺影”が飾ってある。母親のキノエさん(当時84)と妻のはち子さん(55)、長女の美由紀さん(34)の亡骸(なきがら)はまだ見つかっていない。

 

 「不思議なことにあの時以来、3人が夢に出なくなった。どうしてなのか…」と照さんがつぶやいた。「あの時」とは震災から約1年後、枕元の携帯電話の振動音が「ブルッ、ブルッ」と響いた。「お父さん」という妻の声。「お前、今どこにいるんだ」と聞くと、「安渡橋のたもとにいる。お母さんも美由紀も一緒よ」と言ったきり、プツンと切れた。着信履歴にその形跡はなかった。昨年秋、名古屋に住む妻の姉から電話があった。「妹が夢枕に立ってね、もうすぐ家ができるって喜んでいたよ」―。照さんはふ〜っとため息をついた。「オレを苦しめたくないので姉の夢に出たのかも…。でもこれで迷子にならなくて済む。良かった」。

 

 照さんは震災の約4ケ月後、3人の死亡届を提出した。しかし、墓石には戒名を刻んでいない。この7年間、3人からのサインみたいな出来事が相次いだ。ある時、父親の供養のために買い求めた回り灯篭が流失した家の前にすっくと立っていた。中のお釈迦さんを見て腰を抜かしそうになった。「何もかもが流されてしまったのに…。誰かが見つけて組み立ててくれたのかもしれないが、それにしても…」。その数か月後、今度は車を運転して避難所に帰る途中、一匹のカメが前を横切るのに気が付いた。水槽を買い求めて餌を与え続けた。「灯篭が現れたと思ったら、次は長寿のシンボルのカメの出現。まるで生と死の間を行ったり来たり。3人の霊魂との交信だったのかもしれない」。照さんはそう思っている。

 

 震災当時、美由紀さんは母親と一緒に寝たきりの祖母の看病に当たっていた。近所の人が「一緒に逃げよう」と声をかけた。なのに、美由紀さんはただ笑っていただけだったと後で聞いた。「病身のおばあちゃんを置き去りにするのが忍びなかったんでしょうか」。照さんはこう言って言葉を継いだ。「だから、骨のひとかけらが見つかるまでは3人はまだ、生きているんです」

 

 当時の町長ら40人が犠牲になった建物を「震災遺構」として残すべきか、解体すべきか―。町民の議論が二分されていた旧大槌町役場庁舎の解体が町議会で決まった。照さんはある光景が目に焼き付いて離れない。観光客の一団が多くの命を飲み込んだ旧庁舎をバックにVサインしながら、写真に納まっていた。「3人がまだ行方不明なのに…。世間ではもう記念写真の対象だと思うとショックだった」と照さんは悲劇の現場に立ちながら、うめくように言った。この日(3月27日)、「森友」問題にかかわる証人喚問が行われた。「福島出身、東大経済学卒業」―。証人の佐川宣寿・前国税庁長官(前財務相理財局長)のプロフィールについて、テレビ画面は時折、こんな表示を流した。テレビ局の意図は分らなかったが、ふと、公文書の改ざんという問題の核心よりも人心の荒廃ということを考えさせられた。

 

 ふるさと・福島の原発事故の悲惨をこの人はどう心に刻んでいるのだろうか―。Vサインの記念撮影に心を痛めた照さんの表情を思い出しながら、忖度(そんたく)の裏にひそむ、底知れない自己保身(エゴイズム)…他人どころか、我が生まれ故郷の痛みもどこ吹く風― 「刑事訴追」を理由に何と56回も証言を拒否した、この人とこの国の闇(やみ)の深さを見せつけられた思いがした

 

(写真は解体が決まった旧役場庁舎の前に立つ白銀照男さん。お地蔵さんの頭巾も色あせている=3月25日、大槌町で)


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