3・11−その時 そして…山根さん夫妻:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
3・11−その時 そして…山根さん夫妻


 朝日新聞「岩手版」に東日本大震災の被災者聞き書きが連載されている。もう6年以上続いており、今月13日付からは「山根恒夫さん、豊子さん」シリ−ズ(8回)。その5回目(通算2377回目)に私が登場している。筆者は盛岡総局のシニアスタッフライタ−の木瀬公二記者。「命の恩人だと言ってましたよ」と木瀬記者から伝言があった。当時としては当たり前のこと。でも、うれしかった。あの大震災から間もなく7年になろうとしている。記憶の風化が加速する今、木瀬記者の文章と当時の私のブログを以下に再掲し、少しでも記憶を呼び戻したいと思う。

 

 

 山根恒夫さん、豊子さん夫妻が大沢温泉に着いて2週間ほどしたとき、花巻市議の増子義久さん(77)が顔を出した。震災直後から大槌町の支援に来てくれているNPOメンバ−で、避難者が連絡してくれた。増子市議は恒夫さんと同じ3月11日生まれだった。何となく親近感を感じた。被災者の一方は公費で宿泊代が支払われ、一方は自費という状況は被災者差別につながりかねない。増子市議はそう言って市や県に掛け合ってくれた。宿の人も「2人だけからお金を取るのはね」と応援してくれた。まもなく県は、山根さん夫妻の公費での避難を認めてくれた。半月清算で支払おうと用意していた宿泊代は免除され、その日までの、特別に頼んだ食費だけですんだ。

 

 しばらくすると町から仮設住宅を紹介された。8月2日、そこに入居した。そこにも増子市議はよく顔を出してくれた。花巻温泉から仮設に移ったほかの住民と同じく、石油スト−ブやラジオ、衣類などを持ってきてくれた。「心が泣いているときに、顔を見に来たよと寄ってくれるだけで安心した。力になった。10万円もらった気になった」と今でも夫妻はありがたがっている(12月17日)

 

 

【2011年7月2日付ブログから】

 

 神様のいたずらなんだろうか、あの日はちょうどオレの76歳の誕生日だったんだよ。年金を預けている銀行が誕生祝をくれるっていうんで、自転車をこいで貰いに行った。中身は皿のようだった。割れたらいかんと思って、荷台のかごにタオルを敷いて、その上に置いて…。そうして、家に戻ろうと北小(大槌北小学校)の前まで来た時、自転車ごと突き飛ばされてしまった。とにかく立ってはいられないようなすごい揺れだった。かあちゃんが表に出ていたので、「津波が来る。早く車に乗れ」と怒鳴った。そうしたら母ちゃんは親しくしている近所のおばあさんの様子を見て来るって。「その人は一人暮らしだったの。家に入ったら、何と地震で倒れた仏壇の掃除をしているじゃないの。そんな場合じゃないと外に連れ出した」(と豊子さん)。4人を車に乗せて高台へ逃げ、さらに車を捨てて上へ上へと走った。かかとまで水が追いかけてきた。まさに間一髪だった。家も何も、あの誕生祝もな〜にもなくなってしまった。

 それからがまた大変だったんだよ。まるで流浪の民みたいなもんだ。避難所には3日間いただけ。難を逃れた親戚に重度の自閉症の子がいた。一緒に生活していた妹がお産で入院したので、その間、その子の世話をすることになった。無事、出産して戻ってきたので、また避難所に入ろうとしたら、もう一杯だと。仕方がないから埼玉にいる長女のアパ−トに転がり込んで、ここに約40日間。これ以上、迷惑をかけるわけがいかないと思って、以前、湯治に来たことがあるこの温泉の世話になることに。6月24日のことだ。一難去ってまた一難だ。ここには沿岸被災者が公費負担で避難しているが、あんたの場合は申し込みの期限が切れているからダメだと。そこにひょっこり現れたのがあんただったというわけだ。おかげで急きょ、公費負担でOKということになった。(この件については私も市側に再考を促したが、市の沿岸被災市町村支援本部の現場職員も公費負担を認めるよう県に働きかけていたことを付け加えておく)。

 それにしてもどういう巡り合わせなんだろうな、あんたもあの震災の日が誕生日だっていうじゃない。出会いがまるで前世から約束されていたみたいで…。孫がなぁ、「じいちゃんの誕生祝は津波だって。それを生き抜いたんだから、300歳まで生きるよ」だって。確かに漁師一筋の人生で2度も死に損なった。3度目の正直もこうやって、どっこい生きている。今回の大震災は未曽有の犠牲者を生み出した。でも、人と人とのつながりという広がりも作ってくれた。あんたもその一人だ。新しい親戚が出来たっていうわけだ。大槌の海のほっぺたが落ちるような新鮮な魚を食わせてやるからな。(傍らで豊子さんがポツリと言った。「いっそのこと、津波に流されてしまった方が良かったと考えたこともあった。でも、今こうやって生きていて、人の情けの有難さを身に染みて感じている)

 

 

(写真は温泉でくつろぐ山根さん夫妻=花巻市の大沢温泉自炊部で)
 


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