近代沖縄民衆史―「眉屋私記」と「ヒストリア」(続):はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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近代沖縄民衆史―「眉屋私記」と「ヒストリア」(続)


 「もし我々を空想家のようだと言うなら、救いがたい理想主義者だと言うなら、できもしない事を考えていると言うなら、我々は何千回でも答えよう。その通りだと」(ゲバラ)―。フィデル・カストロとともに「キュ−バ革命」を成就したエルネスト・チェ・ゲバラが処刑されて、今年でちょうど50年。この節目をとらえた日本・キューバ合作映画「エルネスト―もう一人のゲバラ」(阪本順治監督)が今月6日から全国で公開されている。日系ボリビア人のフレディ・前村・ウルタ−ドが「もう一人のゲバラ」である。まるで『眉屋私記』(上野英信)と『ヒストリア』(池上永一)を下敷きにしたようなこの映画は現下の”北朝鮮危機“などをも照射するスケ−ルで迫ってくる。

 

 キュ−バ革命(1959年)を成し遂げたその年の夏、使節団として日本を訪れていたゲバラ一行は突然予定を変更して、被爆地・広島へ向かう。平和記念公園で献花をした後、ゲバラは地元記者に話しかける。「君たちはアメリカにこんな目に遭わされて、どうして怒らないんだ」―。冒頭のこのシ−ンが作品全体を貫く通奏低音になっている。場面は一転し、フレディが医学者を目指してキュ−バの地を踏む姿が映し出される。鹿児島県人の父とボリビア人の母との間に生まれたフレディ、20歳の時である。ゲバラの思想に心酔したフレディを演じるのは国際派スタ−のオダギリジョ−。実在の人物が描く史実は当時の中南米の苦悩を浮き彫りにする。

 

 「1959」(昭和34)年―。キュ−バ革命が成功したこの年はある意味で、時代の流れを画するエポックでもあった。ゲバラの広島電撃訪問に前後し、キュ−バ移民の先駆者でもある山入端萬栄(まんえい)とフレディの父親、前村純吉が相次いで異国の地に没した。萬栄のキュ−バ時代にもう一人の移民がいた。のちに「沖縄のガンジ−」と呼ばれ、ふるさと・伊江島で米軍に奪われた土地奪還闘争…”乞食行進“の先頭に立った阿波根昌鴻(あわごんしょうこう)である。阿波根がキュ−バに渡ったのは1925(大正4)年、24歳の時。ペル−への移住を含め、約9年間の異国での生活だった。しかしその間、萬栄と交流があった形跡はない。当時の苦闘をこう語っている。

 

 「キュ−バで5年間働いて5万円儲ける。それを学資にして東京で勉強する。こう決心したわけです。…わっしら(沖縄)本部出身の3人は、ハバナで移民会社との契約を破って逃げました。先輩が案内してくれた耕地に着いて、わっしは肝がつぶれました。誰もみな、髪もぼうぼう、髭もぼうぼう、乞食そっくりでありました。…わっしはこのときにはっきりと、ここは長くおる所ではない、一日も早く引きあげよう、と心に決めたわけでありますよ。みな口々に、移民会社からだまされた、と呪っていました」(『眉屋私記』)。その阿波根は戦後、本物の「乞食」に成りすまし、米軍への抵抗運動を続けることになる。歴史とはかくも冷酷無残なものである。

 

 キュ−バ革命3年後の1962年10月、ソ連(当時)の核ミサイル配備をめぐって「キュ−バ危機」が勃発。米ソの冷戦は一触即発の緊迫した事態になった。フレディら医学生らも防衛の前線に動員された。米ソ両首脳の突然の合意で「核ミサイル」危機は危うく回避されたが、2年後の64年に今度は母国ボリビアに軍事政権が誕生した。ゲバラを指導者に組織された「ボリビア民族解放軍」がわずか50人のゲリラで戦闘を開始したのは3年後のこと。「怒っているんだ、いつも。怒りは憎しみとは違う。憎しみから始まる戦いは勝てない」―。ゲバラの激(げき)を背に受けたフレディも政府軍に包囲されたジャングルに足を踏み入れた。そして、わずか数か月の戦闘の果て―。

 

 1967年8月31日、フレディ処刑、25歳。戦士ネ−ム「エルネスト・メディコ」(医師)。約一か月後の10月9日、ゲバラ処刑、39歳。いずれもボリビア戦線で。

 

 『ヒストリア』の主人公、知花煉(れん)が作中でゲリラ闘争について、ゲバラと口論になる場面がある。沖縄戦でマブイ(魂)を落とした煉はこう語る。「エルネストには悪いけど、あなたの言う抽象的な観念って理念としてはわかるのよ。でもそんな世界は訪れないわ。私は自分が経験したことしか信じない主義なの。人権がないとか、労働者の権利がないとか、選挙権がないことがそんなに問題なのかしら?私には弾圧された社会の方が、爆弾や機銃や火炎放射器で虐殺される社会よりずっといい暮らしに思えるの…」。ゲバラの情熱はわかりつつも、壮絶な沖縄戦の実体験と今に至る米軍支配の実態がこう言わせたのであろう。究極のパラドックスである。

 

 「不平等の是正を掲げて革命に身を投じた英雄」、「神格化された顔とは別な残忍な独裁者」―。二人の「エルネスト」没後50年の今年、現地では「ゲバラ」伝説をめぐって、評価が二分されている。その一方で、「ヒロシマ」を背景に沖縄を含めた日本人移民を巻き込んだ阪本映画の演出は、時空間の縦糸と横糸を自在に組み合わせた光景を眼前に浮かび上がらせる。米国・トランプ政権の眷属(けんぞく)に成り果て、“北朝鮮危機”を煽(あお)りたてるこの国のありようは、いやが応でも55年前の「核ミサイル危機」(キュ−バ危機)を想起させるに十分である。その命運を左右する総選挙は本日22日である。

 

(写真はゲバラ役を演じるキュ−バ人俳優とフレディ役のオダギリジョ−=インターネット上に公開の映画シ−ンから)

 

《追記》

 第8回山田風太郎賞に『ヒストリア』が選ばれ、11月24日、東京で贈呈式が行われる。

 

 

 

 


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