「老老」日記…「デンデラ野」残酷物語―食べ物の恨みは!?:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
「老老」日記…「デンデラ野」残酷物語―食べ物の恨みは!?


 

 

 「食べ物の恨みは恐ろしい」―。げに「そのこと」を実感させられる日々である。ここに掲げたメニュ−は私の活力の源(みなもと)になっているある日の朝食。ただし、場所は外食先。「じじ・ばばが楽しく働く/じじ・ばば・若者・子供が楽しく集う/安全・安心の地場のものを食べる、そんなカフェです」…ホンワカとした宣伝文に誘われて、テ−ブルに着いた。運ばれてきたお膳を見て、感動に胸が高まった。生野菜つきハムエッグに焼き魚、納豆に煮物の小鉢と漬物。味噌汁が香ばしいにおいを漂わせ、湯気を立てている。ホッカホカのご飯は2杯までお代わりOKで、お値段はたったの350円なり。

 

 大げさに聞こえるかもしれない、この犂尭”物語の裏には実は「恨み節」がある。2年半前、妻に先立たれた私はコロナ禍の追い打ちでついに、独居自炊の生活を断念。昨年夏に現在のサ高住(サ−ビス付き高齢者向け住宅)に転居した。同じ花巻市内という地の利に加え、なんといっても「3食付き」という条件に飛びついた、はずだったが…。「これで残り少ない余生も有意義に過ごせるのではないか」という夢ははかなくも潰(つい)え去った。まるでお通夜のような食事風景と何よりも目の前に置かれた食べ物の品ぞろえに心底、「ゾッ」とした。たとえば、コメント欄に掲載した1月28日提供の朝食の写真をご覧いただきたい。枝豆のふわふわ豆腐、マヨ和え、味つけ湯葉、あっさり高菜にご飯とみそ汁で、こっちは500円なり。

 

 入居時の「食事サ−ビス契約書」には1日3食の食事提供を受ける対価として、月額48,600円(うち、消費税3,600円。朝食500円、昼食400円、夕食600円)を支払うことが定められ、当然のことながら、私自身もこれに同意している。さらに食事内容も“湯煎料理”というレトルトの食材を使用するという説明も事前にあった。まあ、これも老人向けの“健康食”かも知れないと甘んじることにしたが、べじょべじょに溶けそうなオヒタシや種類は違っても味つけは変わらない魚や肉の3食攻勢にさすがに辟易(へきえき)するようになった。「あったかいご飯とみそ汁、それに漬物の切れ端さえあれば、それで十分だ」―。戦時下の窮乏期に育った私はふいに、母親の言葉を思い出して合点した。「そうだ、ここに欠けているのは愛と心なのだ」と―

 

 そんな悶々としたある日、冒頭のホンワカカフェを見つけた。施設から車で5分ほどの近さである。契約通りの食費を払いつつ、私は2月から朝と昼をこの店で取るようにした。食事の中身や値段をことさら、言い募ろうという気持ちはさらさらない。だがその一方で、私はこの店で“干天の慈雨”をのどを鳴らしながら、飲みほしたような気持になったのも事実だった。「食こそが人権のかなめ」(食の民主主義)という言葉がある。施設側に言わせれば、私の自己都合(つまりは我がまま)と言いたいのであろうが、私にとっては自己防衛のための止むを得ざる選択である。

 

 今月13日午後11時08分、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震発生(当地は震度4)。泊まり勤務の男性アルバイトと声をかけ合いながら、入居者の安否を確認した。90歳前後の高齢の女性たちはベットの上で恐怖におびえていた。私が普段から声掛けをしている88歳のYばあちゃんが翌日、パジャマ姿のまま、廊下を這いまわっているのに出くわした。うめくように言った。「地震がおっかなくて。おら、いつも一人ぽっちだ。食事も残せば怒られると思って、無理くり腹に押しこんでいる。おらはもう、ここから逃げ出したくなった」―

 

 「去るも地獄、残るも地獄」…“人質”という嫌な言葉が口からこぼれた。コロナ禍に翻弄される老人コミュニティの闇を見せつけられる思いがした。人生の最後になるであろう狄邑“闘争への宣戦布告をモグモグつぶやいている自分に一瞬、ぎくりとした。と同時に、それに向かって踏み出すであろう、もう一人の自分も予感していた。「たったひとりの人権も守れないお前の人生とは一体、何だったのか」と。人権を「侵害する側」と「侵害される側」との境界線が“不分明”の時代を、私たちは生かされているのかもしれない。それはあたかも「人間」の「幽霊化」(正体不明のおばけ)のようにさえ見える。さ〜て、窮鼠は(きゅうそ)は猫を噛むのかどうか……

 

 2月20日に命日を迎えた『蟹工船』の筆者、小林多喜二の生涯を描いた故・井上ひさしさんの戯曲「組曲虐殺」のセリフの一節を朝日新聞のコラム「日曜に想う」(2月21日付)が紹介していた。「絶望するには、いい人が多すぎる。希望を持つには、悪いやつが多すぎる」―。まわりを見回すと、まこと「悪いやつら」が我がもの顔で闊歩(かっぽ)している。

 

 

 

 

(写真は心がこもった手づくりの朝定食=花巻市内のカフェで)

 


2021.02.22:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
350円VS500円

ある日の施設の朝食(500円)。口にするまでもなく、一目瞭然で「350円」に軍配!?

2021.02.22 [修正 | 削除]
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