“傷だらけの人生”と「記憶喪失症」研究:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
“傷だらけの人生”と「記憶喪失症」研究


 

 「古い奴だとお思いでしょうが/古い奴こそ、新しいものを欲しがるもんでございます/どこに新しいものがございましょう/生まれた土地は荒れ放題/今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」―。「魂の秘境」をさ迷い歩き、「イ−ハト−ブ」を散策して娑婆(しゃば)に戻ったとたん、こんな歌が口をついて出た。仁侠節は続く。「何から何まで、真っ暗闇よ/すじの通らぬことばかり/右を向いても、左を見ても/ばかと阿呆のからみあい/どこに男の夢がある」…。「いまの世情そのものだよなぁ」とボソボソとつぶきながら、そうご存じ、鶴田浩二の「傷だらけの人生」である。

 

 と、そんな鬱々(うつうつ)たる日々を送っていたある時、「市議に脅迫文、ネットに中傷」(5月9日付「西日本新聞」)という見出しが目に飛び込んできた。今年4月、北九州市で開かれた文部科学省の前川喜平・前事務次官らの講演会で、司会を務めた同市の無所属議員、村上聡子さん(52)に対し、講演会の前後からネット上で中傷の書き込みが相次ぎ、5月には事務所に「死ね」などと書かれた郵便物が送り付けられていた―という内容だった。前川氏はいわゆる「加計学園」問題をめぐって「総理のご意向」などと書かれた文書を暴露し、政府に反旗を翻したことで知られていた。

 

 その2カ月前、名古屋市内の中学校が前川氏を招いて公開授業を開催した際、文科省が市教委に対し、授業内容や録音デ−タの提出を求めていたことが明らかになった。照会メ−ルは2回にわたり、質問項目は計28項目に上った。「前川氏が出会い系バ−に出入りしたことが不適切だという報道がある。それも踏まえた上で、招いた判断をどう認識しているか」などという項目もあった。この問題について、当時の校長だった上井靖さんはこう語った。「修了式で今回の騒動に触れ、こう伝えました。『物事を判断するのは自分ですが、正しいと思い続けるのではなく、どんどん更新してください。いろんな考えの人の話を聞くことを大事にしてください』、と」(5月10日付「朝日新聞」)

 

 2日続きのこの記事が忘れかけていた“悪夢”を呼び覚ました。その顛末とは―。東日本大震災(2011年3月11日)が発生した半年後に開かれた花巻市議会6月定例会で、全国から寄せられた義援金の一部が市予算の歳入に計上されるという地方自治法違反(いわゆる「義援金流用」疑惑)が浮上した。当時、三陸沿岸で被災した千人以上が花巻市内の旅館やホテルに避難。審議が行われたその日は定員を超える被災者が傍聴に詰めかけ、成り行きを見守っていた。

 

 「さっさと帰れ」―。休憩に入った直後、革新系会派に属するある議員(故人)が突然、傍聴席に向かって、暴言を浴びせた。訴えを聞いた私はさっそく、真相の究明を議会サイドに求めた。当の議員は「言った覚えはない」とシラを切り続けた。事態は予想外の方向に進展した。「本人は記憶がないと言っている。傍聴者の聞き違いもないとは言えない」という理由で、社民党系会派(平和環境社民クラブ)と共産党所属の議員を正副とする「議員発言調査特別委員会」が正式に設置された。傍聴に来ていた被災者のうち10人が「ちゃんと聞こえた」と証言したにもかかわらず「確証は得られなかった」として、今度は同じメンバ−による「懲罰特別委員会」が発足した。半年後の12月定例会で、私は「議会の品位を汚した」という理由で戒告処分に処せられた。

 

 「朝日新聞出身の市議がネタ元で、ねつ造記事を朝日新聞に掲載する。ヤラセの臭いがプンプンしますわね」、「民主主義のル−ル、多数決の結論にも従わず暴言を続ける71歳の悪あがき」、「あなたのボランティア活動とやら、公職選挙法違反ですよ」、「議員なんて辞めて、お遍路にでも出た方が市民が喜ぶと思いますよ」、「他人の善意を我が物顔で分配するカリスマ議員。この方のボランティアって、もしかしたら究極の選挙活動、売名行為とちゃいますか」…。処分を受けるまでの半年間で、ブログに対する誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)の書き込みは200件以上に達した。さながら、議会の内と外からの“集団リンチ”だった。あれから7年―。

 

 「私は部下を信じている。子どもの使いじゃない。職員の側に真意をねじ曲げるような動機はそもそもない」―。「加計学園」問題をめぐって、参考人招致された柳瀬唯夫・元首相秘書官は誘致先の愛媛県側が「ウソ」の証言をしているかのような答弁を重ねた。中村時広知事は毅然として、冒頭のように発言した。私はこの言葉を聞きながら、やっと7年目にして身の潔白を晴らしてもらったような気がした。

 

 あの当時、私も一貫して「被災者が『聞いてもいない』ことを『聞いた』と言い募る動機はまったくない」と主張した。しかし、議会側は「当該議員が被災者とグルになって芝居を演じていないとも限らない…」などと周囲に吹聴していたことを後で知った。自らの権威と体面を守るため、「あったこと」を「なかったこと」にするという不正義が、しかも革新系議員の主導で強引に推し進められたのである。私の処分に反対の意思表示をした議員はわずか2人だけだった。今回の「モリカケ」騒動と瓜二つの構図である。「品位を汚された」と臆面もなく口にする鉄面皮に、私は底知れない人品の腐敗を思い知らされたことをまざまざと思い出した。

 

 「嘘をつく人は、防御ラインを必要以上にあげ、より大きく嘘をつくものだ、と知っておくことも重要です。例えば、妻から浮気を追及された夫は『その日は女性と一緒に食事をしたが、浮気はしていない』と言えばいいのに、『その日は女性と会っていない』と言いがちです。しかし、過度に嘘をつけば、2人分の食事代が書かれたレシ−トなどで面会がばれ、しどろもどろになります」(5月11日付「朝日新聞」)―。「記憶喪失症」について、弁護士の亀石倫子さんはこう語っている。一連の論評の中でも群を抜く心理分析で、目からうろことはこのこと。でも、私ごとではないので、念のため…。

 

 「なんだかんだとお説教じみたことを申して参りましたが、そういう私も日陰育ちのひねくれ者、お天道様に背中を向けて歩く…馬鹿な人間でございます」。仁侠節がまた、耳の奥に聞こえ始めた。目の前には市議の村上さんや前校長の上井さん、知事の中村さん、そして前川喜平・前文科事務次官の晴れがましい顔が見え隠れする。そりゃ、そうだ。世の中、ウソつきばっかしじゃねえってことさ。いつの間にかこっちも仁侠口調になってきた。「好いた惚れたは/もともと心が決めるもの/ひとつの心に、重なる心/それが恋なら、それもよし…」―。鶴田浩二はまだ、唸(うな)っている。「嘘は泥棒の始まり」、いや「嘘から出たまこと」と言うべきか。「傷だらけのニッポン」が目の前でのたうち回っている。

 

 

 

(写真は懐かしい「傷だらけの人生」のジャケット=インタ−ネット上に公開の写真から)

 


2018.05.17:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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