「赤報隊事件」から“赤報隊”的時代へ:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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「赤報隊事件」から“赤報隊”的時代へ


 

 「地下に潜んでいた赤報隊がついに、その正体を現したのではないか」―。幹部自衛官の「国民の敵」発言(4月20日付当ブログ参照)を知った時、刹那的にそう思った。いや、正確に言えば、“赤報隊的”な考え方に国民の側が耐性を失いかけているのではないか―という思いである。その前後、『記者襲撃―赤報隊事件30年目の真実』(樋田毅著)と題するノンフィクションを読んでいたせいかもしれない。元朝日新聞記者の樋田さんは事件の発生以来、取材班のキャップとして陣頭に立ち、定年退職して65歳になったいまも見えざる犯人(国民の敵)を追い続けている。「赤報隊事件」とは一体、何か―。

 

 1987年5月3日の憲法記念日のその日、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に目出し帽で顔を隠した男が押し入り、散弾銃を発砲。当時29歳の記者が死亡、42歳の記者が重傷を負った。この事件を挟(はさ)んで前後3年4か月間に同じような“言論テロ”が8件相次いだが、2003年3月にすべてが時効になった。いずれの場合も「赤報隊」を名乗るグル−プから犯行声明文や脅迫状が報道機関などに送り付けられた。幕末維新、江戸騒擾(そうじょう=テロ)の一役を担(にな)ったものの、後に「偽官軍」として処刑されたのも同じ名前の赤報隊だった。伝統右翼や新右翼、暴力団系右翼…。「あなたは犯人ではないのか。そうでないのなら、その証拠を示してほしい」―。警察庁がリストアップした「9人」との息詰まるような対決が続く。

 

 「われわれは日本人である。日本にうまれ、日本にすみ、日本の自然風土を母とし、日本の伝統を父としてきた。われわれは日本国内外にうごめく反日分子を処刑するために結成された実行部隊である。特に、朝日は悪質である。全国の同志は、われわれの後に続き、内外の反日分子を一掃せよ」(要旨)―。8通の犯行声明文に共通するのは戦前回帰的な文言である。樋田さんが対峙したある右翼関係者が不気味な言葉を残している。「われわれにとって、捕まらないまま逃げおおせた赤報隊はまさに好都合だ。記事や言動次第では、赤報隊が再び動き出すぞ、という無言の圧力をかけ、今後も社会の重しの役割を果たしていくのだ」―。その後の事態はこの予言めいた言葉通りに推移した。

 

 「我々は赤報隊の行動を、義挙(ぎきょ=正義の行い)だとはっきり支持する立場で街宣を行う」―。4年前、2014年5月3日の憲法記念日、朝日新聞阪神支局の前に止まった街宣車からこんなアジ演説が飛び出した。前記の右翼関係者の言葉は「赤報隊に思想的に共鳴する数だけ、赤報隊は存在する」ということを暗示していたのではないか。「安倍一強」体制が着々と地歩を固め、一方では従軍慰安婦問題などで朝日新聞に対するバッシングが最高潮に達していた時期とも重なる。こんな時勢に乗じる形で、もうひとつの“赤報隊”がひょいとその素顔を見せた瞬間ではなかったのか。樋田さんは当時の動きを「2014年」問題として位置付けている。

 

 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」が東京・新宿御苑で開かれた今月21日、大阪で「偏向報道に負けるな!安倍政権がんばれ大行進in大阪デモ」なるイベントが開かれ、「かけがえのない安倍政権を応援し、憲法改正を絶対に実現しよう」などと気炎を上げた。この催しに首相夫人が感謝のメッセ−ジを送ったというニュ−スがネット上に飛び交った。懲(こ)りない人である。首相自身の朝日バッシングも勢いを増し、今年2月には森友学園問題に絡んで、「哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした」と自らのフェイスブックに書き込んだ。こんな風にして、権力の外堀が埋められていくのかと思うと、背筋がゾッとする。忖度(そんたく)などという「耐性の劣化」がこれを援護する。“赤報隊的”な時代状況の顕現化は目を覆(おお)うばかりである。

 

 「『国益を損なう』『気持ち悪い」『ばか』などとは口にしたが、『おまえは国民の敵だ』という発言はしていない』―。例の暴言自衛官はこう弁明している。「屋上屋を架(か)す」とはまさにこのことではないのか。その言葉の総体が国民を敵に回していることにこの自衛官は気が付いていないらしい。かつて、西郷隆盛は相楽(さがら)総三が率いた赤報隊を後押しした。権力のお墨付きを得た件(くだん)の自衛官がもしかして、相楽を気取っているとしたら…。樋田さんは「最後に、赤報隊に呼びかける」という一文で著書を閉じている。

 

 「君たちは単なる殺人集団なのか。それとも思想犯なのか。もし思想犯ならば、一連の朝日新聞社襲撃事件を起こした経緯について、世間に知らしめたいと思わないのか。君たちが希望するなら、私は君たちの主張をじっくり聞き、世間に正確に伝えることを約束する。赤報隊よ、逃げ隠れするな」―。「森友・加計」問題をめぐる首相の関与疑惑、公文書の改ざん、財務省と国税庁のトップ官僚の相次ぐ辞任、自衛隊の日報隠し…。さしもの、独裁体制にも陰(かげ)りが見え始めているが、ここまで追い込んだのも朝日新聞の相次ぐスク−プだったことに敬意を表したい。NHKスペシャル「未解決事件―赤報隊事件」で樋田さん役を演じた俳優の草剛さんはこう話している。

 

 「阪神支局事件が起きた時、僕は中学生でした。事件について知らなかったのですが、知れば知るほど、自由にモノが言える、自由な社会とはなにか、考えるようになりました」―。赤報隊の申し子たちがいま、全国のあちこちに出没している。沖縄・名護市の米軍新基地建設現場(辺野古)では連日のように反対派住民が力づくで排除され、負傷者が続出している。赤報隊とは実は「安倍一強」体制の別動隊の謂(い)いであろう。その標的は今度は「琉球新報」と「沖縄タイムス」の地元2紙に向けられつつある。

 

 

(写真は「見えない」赤報隊を追い続けた30年の記録。「この十字架を死ぬまで背負っていく」と樋田さんは語っている)

 


2018.04.24:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
赤報隊の正体
『記者襲撃』を読んでも赤報隊の正体は分からなかった。なぜ犯人に辿り着けなかったのか。捜査機関も朝日新聞も検証すべきだった。NHKスペシャル未解決事件が少し未解決になった原因を明らかにしたのではないか。この歴史的事件の真相解明は、今も途上であり、必ず成し遂げて欲しい。
2018.05.19:Susumu.T [修正 | 削除]
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