「ウ−マンラッシュアワ−」という知性と”善意の人族“:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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「ウ−マンラッシュアワ−」という知性と”善意の人族“


 「こりゃ、まずいな」と思った。元旦恒例の“朝生”(テレビ朝日系の討論番組「朝まで生テレビ」)に出演したお笑いコンビ「ウ−マンラッシュアワ−」の村本大輔さん(37)のことである。在日米軍に対する「思いやり予算」について、「アメリカより沖縄に思いやりを…」などと鋭い政治ギャグで人気が広がっているらしい。自ら「小学生以下」と卑下する”素人目線”が、沖縄に対する「無知・無関心」(知らんふり)を決め込む本土側の世論にどう切り込んでいくのか。そんな期待を抱きながら、テレビの前に陣取った。ところが、その真っすぐな思い入れとは真逆の結果に…。

 

 「(自衛隊が)違憲というのは、何が違憲なんですか」「沖縄は元々、中国から奪い取ったもの」「僕は非武装中立の立場。侵略されたら白旗を挙げて降伏する」…。直球一本勝負の村本さんの突っ込みに並みいる論客たちも一瞬、言葉を飲み込む場面も。でもだんだん、心配になってきた。沖縄の歴史に対する知識の希薄さ、憲法9条を読んだことがないと堂々と告白する、その無邪気さ…。沖縄における米軍基地反対運動について、村本さんはツイッタ−にこう書き込んでいる。「おれらが見るべきは、右と左ではなく、ただ大好きなこの場所をただ守りたいって言う彼らの思いに耳を傾けること。現場に行って、この人たちと酒飲んで話してこい。その中の簡単には判断できないグレ−の部分、感じ取ってこい。楽に判断するな。楽に生きるな」

 

 私はテレビを見ながら、20年以上も前のある光景を思い出していた。会場を埋め尽くした観客が米国の女性作家、マルロ・モ−ガンさん(当時60歳)の講演に身を乗り出すようにして聞き入っている。「彼ら『真実の人族』は自然と一体となる名人だ。宇宙のたまものを利用しながら、秩序を乱さずに去るのだ」―。彼女が出版した『ミュ−タント・メッセ−ジ−「真実の人族」の教え』(1991年)は全米で150万部を超えるベストセラ−になり、日本語版も重版を重ねていた。オ−ストラリアの先住民族「アボリジニ−」から文明人を意味する「ミュ−タント」(突然変異種)にメッセ−ジを伝える使命を授かったという内容だった。

 

 「私たちの魂を盗んだ者として、あなたを断罪する。部族と接触した事実さえない」―。民族衣装に身を包んだ2人のアボリジニ−が抗議の声を上げた。会場は一時、騒然となった。なぜ、テレビの画面が当時の記憶に重なったのか。その時の気持ちをこう記している。「私は会場に足を運んだ人たちを『善意の人族』と呼びたい誘惑にかられた。価値観喪失の時代といわれる世紀末。自分の『生き方』を模索したいという切実な思いが会場にあふれていた。がその一方で、先住民族が背負う苦難の歴史と現状を自らの問題として、問い直そうという声はあまり聞かれなかった。心地よい響きの『ミュ−タント・メッセ−ジ』にただうっとりと耳を傾けているとしか映らない光景に、私は『善意の人族』が陥りやすい落とし穴を見た思いがした」(1997年5月1日付朝日新聞「コラム 私の見方」)。出版元はこの抗議を受け、ジャンルを「フィクション」に変更して再刊した。

 

 村本さんの純粋な気持ちを否定するつもりはさらさらない。それどころか、政治の保守化が叫ばれるいま、こうした若々しい感性こそが求められていると思う。錚々(そうそう)たる論客を相手に孤軍奮闘する姿には感動すら覚えた。がその一方で、私は一方的な思い入れが時として、目の前の落とし穴に無防備になることの危うさを思い出したのだった。あの時の「善意の人族」のように…。

 

 パネリストの一人で東京大学教授の井上達夫(法哲学)さんは、村本さんの”素人目線”について、こう語った。「君の姿勢は評価できるが、それを他人に強制してはならない。素人目線の背後に他者を見下すような愚民性が潜んではいないか」。最近は「えせ右派」と言われるらしいが、右派の漫画家として知られる小林よしのりさんは立憲民主党に入党した山尾志桜里議員(民進党)の応援団長を公言している。その小林さんはツイッタ―でこうつぶやいた。「村本は中高生でもないし、若者でもない、無知なおっさんだ。無知は罪でもある。わし自身を振り返りつつ言うが、無知は常に恥じて勉強し続けなければならない」―。彼自身の体験に根差した述懐であろう。

 

 表現はきついが、私自身への自戒を含めて、この二人の”忠告“には謙虚に耳を傾けたいと思う。偶然だが、”朝生”が放映された2018年1月1日付朝日新聞で、哲学者の柄谷行人さんは美術家、横尾忠則さんとの対談で、こう語っていた。

 

 「僕はかつて、『必読書150』という本を編纂(へんさん)したことがあります。その中で、こういうことを言いました。『我々はいま教養主義を復活させようとしているのではない。現実に立ち向かうときに教養がいるのだ』と。カントもマルクスも読まないで何が考えられるのか、と言ったのです。確かに、読む必要のある本がある。しかし、皆が読まなくてもよい。それを必要とする人が読めばいい。それは昔もスマホ時代の現代でも同じことで、本を読む人は読む、読まない人は読みません。世代の問題でもない」(読書新春特別版「何のため、本を読むのか」)

 

 カントやマルクスとまでは言わない。村本さん、今年はあなたの同伴者のつもりで、一冊でも多くの沖縄関連の本を読みたいと思う。その本を携えての沖縄行もご一緒できれば、と…。「癒(いや)しを求めて沖縄にやってくる観光客は多いが、そういう人に限って基地に足を向けることはほとんどない」―。沖縄の知人の言葉が耳元に聞こえている。「終末時計が音を刻み、終末が近づいている」(柄谷×横尾対談)―という現代社会にとっては、「村本大輔」という個性こそが必要とされているのである。言論界にとっての「自明の理」(常識=既成概念=権威主義=虚構)に対し、変則パンチ…つまり言葉の真の意味での、”まっとうな”というか、”根源的"な「正論」を繰り出せるのは、村本さん、あなたしかいないと思うからだ。

 

 今年のNHK大河ドラマは“征韓論”の西郷隆盛の生涯を描いた「西郷(せご)どん」―。お返しに、北朝鮮から「テポドン」(ミサイル)が飛んでくるかも…。たとえば、村本さんならではの、こんな政治ギャグの健在ならんことを祈りつつ―。

 

 

 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。今年も前途多難な一年となりそうな予感の中で…。雲上の霊峰・早池峰からは、神々しい光の粒が降り注いでいます。

 

 

写真は”朝生“に出演した村本さん。左は司会の田原総一朗さん=インタ−ネット上に公開の写真から)

 


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