大川周明とアイヌ民族、そして沖縄:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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大川周明とアイヌ民族、そして沖縄


 「戦前は『不敬』で軍部・右翼が弾圧、戦後は『危険』でGHQが発禁にした歴史書!待望の新書化、日米両政府が封印した不都合な真実とは!?」―。10月末、新聞各紙におどろおどろしい宣伝文が載った。不敬罪削除37か所を復原したというこの本のタイトルは『日本二千六百年史』―。筆者は日本の思想家、大川周明(おおかわしゅうめい、1886〜1957年)。満鉄調査部などに勤務し、「特許植民会社制度研究」で法学博士の学位を受けた。近代日本の西洋化に対決する一方で、アジア主義と日本精神の復興を提唱し、”大東亜戦争“を主導した一人とみなされた。

 

 東京裁判では民間人としては唯一、A級戦犯として起訴された。休廷中、前に座っていた東條英機・元首相の禿げ頭をペタペタ叩き、結局、精神障害として不起訴になった。罪逃れの芝居だったのかどうかその真偽が不明のままだが、晩年はコーラン全文を翻訳するなど数奇な人生を送った。この得体のしれない人物に対して、私は「敬して遠ざける」あるいは「触らぬ神に祟(たた)りなし」という立ち位置を持してきた。いまこの時期の復刻についての詮索(せんさく)はさておき、一方で「日本はアイヌ民族の国土であった」というキャッチコピ−に目を奪われた。こんな内容の記述である。

 

 「もし吾らの憶測に大過なくば、初め日本は恐らくアイヌ民族の国土であった。この憶測の根拠となるものは南は九州より北は奥羽に至るまで、日本の地名はほとんどアイヌ語らしきことである。…果たしてしかりとすればアイヌ民族は日本諸島の先住者であり、日本民族は彼らに後れて到着ものとせねばならぬ」(本文より)―。タイトルにある「二千六百年」とは一般に「皇紀二千六百年」と呼ばれるもので、1940(昭和15)年が神武天皇の即位から2600年目に当たることを指している。つまり、本書は天皇を頂点とした「大和朝廷」の正当性を主張するのがねらいであったはずである。

 

 注目されるのは書かれた時期である。日本が戦争の泥沼に足を踏み入れつつあった昭和14年6月、私が生まれる1年前に本書は刊行された。時代の波に受け、たちまちベストセラ−になったが、大川が主張する“アイヌ起源説”が軍部や右翼の一部から天皇に対する「不敬罪」に当たると指弾され、削除や訂正を余儀なくされた。アイヌ民族の同化政策を進める「北海道旧土人保護法」が制定されたのは1899(明治32)年。全面戦争を前にした日本にとっては「単一民族国家」の確立こそが急務だった。大川の歴史認識の可否にも大いに問題はあったが、天皇の統治権を提唱する「国体明徴(めいちょう)」運動の下では到底許されない“過激思想”だったということであろう。

 

 沖縄戦と広島・長崎への原爆投下を経て、日本の敗北が決定的になった時、今度はGHQ(連合国総司令部)がアイヌ民族の動きに注意を喚起し始めていた。米ソの対立が顕在化しつつあった敗戦2年後、GHQはアイヌ協会(当時)の長老4人を集めた。私が入手した録音テ−プにはこんな会話が残されている。

 

●GHQ:あなた方は日本人ですか。それとも特別なアイヌ人ですか。独立をするのであれば、今ですよ。
●長老:我々は日本人です。特殊な人種ではありません。だから、そういう(独立の)考えは毛頭ありません。北海道全体のアイヌを集めても、わずか3万6千人程度です。独立をする気持ちはありません。
●GHQ:いま独立をしないで、後になって日本人とは絶対に喧嘩をしないでくださいね。

 

 GHQはこの時、長老に対して現金30万円を渡している。当時としてはかなりの高額である。「独立」を断念させるための工作ではなかったのか。北海道を対ソ防衛の拠点にしようという米側の目論見があったことがうかがえる。大川のこの“奇書”を日米両政府が封印した所以(ゆえん)である。

 

 この原稿を書いていた時、傍らのテレビが「熱き島を撮る/沖縄の写真家・石川真生」(11月11日ETV特集)と題する特集を放映していた。これまた不思議な偶然である。石川真生(まお)さん(64)は米軍統治下の沖縄で生まれ育ち、写真家になって43年。ずっと沖縄で生きる人たちにレンズを向けてきた。数年前から始めたのが「大琉球写真絵巻」の制作。薩摩藩の琉球侵攻から沖縄戦を経た米軍統治、返還後も続く米軍基地の重圧、最近の高江・辺野古の新基地建設まであらゆる場面を創作写真で表現する。「写真を撮りながら、沖縄の歴史を学んだ。小さな島だけど沖縄人はずっと抵抗し続けてきた」と石川さんは語った。

 

 亡霊のような思想家に促されながら、いつしか迷路を彷徨(さまよ)っているような気分になった。ハタと心づいた。蝦夷征伐から琉球処分、アイヌ同化政策…。『日本二千六百年史』とは皮肉にも辺境を切り捨て、国家統一を成しとげるまでの「支配原理」を教える反面教師の役割を担っていたのだ、と。だから、たまにはこの種の奇観(きかん)本も読むに足るべし。そういえば、来年は明治150年―。この節目に合わせた「復古」の動きもチラホラと…。

 

(写真は東京裁判の法廷内でのちに絞首刑になる東條英機・元首相の頭を叩く大川周明=インタ−ネット上に公開の写真から)

 

 

 


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