賢治の命日よそに、当局と議会が打ち上げ(宴会):はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ
賢治の命日よそに、当局と議会が打ち上げ(宴会)


 

 「9・21」は花巻にとって、きわめて意義のある日である。当市がまちの将来像に掲げる「イ−ハト−ブ」(はなまき)は「夢の国」とか「理想郷」を意味し、その名付け親は地元出身の童話作家で詩人の宮沢賢治である。ちょうどその85回忌に当たるこの日、賢治詩碑前で行われた「賢治祭」には外国人を含む愛好家が全国から集い、賢治作品の朗読や地元小中高生などによる野外劇、郷土芸能などを鑑賞、37年という短い人生をしのんだ。この日、好天に恵まれた詩碑前の広場には星が降るように注ぎ、かがり火を囲んだ“語らい”が深更(しんこう)まで続いた。夢や希望を乗せた「イ−ハト−ブ号」が銀河宇宙の天空にぽっかり、浮かんでいるように見えた。

 

 この日はたまたま、花巻市議会9月定例会の最終日にぶつかっていた。「核兵器禁止条約」の署名・批准を求める請願書が9月11日開催の総務常任委員会(阿部一男委員長ら6人)で不採択になったのを受け、最終日の本会議で採決が行われた。私は委員会レベルでの議論の経緯について、「今回の条約では唯一の被爆国である広島や長崎の悲劇を直截(ちょくせつ)に『ヒバクシャ』と表現している。その意味では日本こそが条約実現の先頭に立つべきだ」と話し、この日にちなんで、あの有名な惹句(じゃっく)をメッセ−ジに託すように訴えた。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない/自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する」(『農民芸術概論綱要』)。採決の結果、請願は賛成14:反対10で逆転採択となった。

 

 秋の冷気が肌を刺し始めた午後4時すぎ―。詩碑前には花束を手にした人たちが長い列を作っていた。見上げるような石碑には彫刻家の高村光太郎の筆になる「雨ニモマケズ」の一節が刻まれている。上田東一市長も献花し、「賢治さんに対する思いを新たにしていただきたい」とあいさつした。近くの南城小学校4年生62人による「ポラ−ノの広場の歌」の大合唱、花巻南高校演劇部による「どんぐりと山猫」…。花巻農業高校鹿踊り部が披露する「一番庭」で雰囲気は最高潮に。踊り終わった9人が素顔を見せると、全員が女子部員…会場は割れるような拍手に包まれた。

 

 一方、9月定例会最終日には当局と議会との間で“打ち上げ”を兼ねた懇親会が開かれるのが恒例となっている。上田市長も一足早く、賢治祭の会場を後にした。質疑で激論を交わした双方が反省点も含めて交流するのは有意義なことである。私もこれまで欠かさずに参加してきた。ところが、今年は運が悪いことにこの二つの”節目“が重なってしまった。もてなす側の“主役”を欠きながら、賢治をしのぶイベントは淡々と進んでいった。「沈黙は金なり」、「物言えば唇寒し」…。一部の関係職員を除き、主役たちが姿を見せることは最後までなかった。

 

 「私にとって、賢治さんとは」―。車座になった人たちがかがり火に照らされながら、思い思いの「賢治像」を語り始めた。賢治没後50周年を記念してオ−プンした「宮沢賢治記念館」は同種の賢人顕彰施設の中では異例の人気を維持し、ピ−ク時の平成18年度の一日当たりの入館者数は500人を超えた。「賢治さんに支えられて人生を生きてきた」、「目標を失った現代社会で必要とされているのはまさに、賢治精神ではないのか」…。一途でまっすぐな表白を耳に聞きながら、私はふと思った。「命日を変えることはできない。打ち上げの日程を前後にずらすような配慮は働かなかったのだろうか」―。

 

 雌雄(しゆう)を決する覚悟で臨んだ今回の9月定例会での光景が浮かんでは消えた。私の質問は「コンプライアンス」(法令遵守)一本に絞られた感があった。事実、法に抵触するような事案が次々に明らかになった。当局と議会の役割を規定した「二元代表制」が今まさに「一輪車」と化している現実を、元総務大臣で鳥取県知事を務めた片山善博・早稲田大学教授は以下のように厳しく論難した。私は一般質問の締めくくりにその文章を借用した。

 

 「『(車の)両輪』は車軸で繋がっているが、通常二つの『車輪』には適度な距離がある。距離があるからこそ、そこに異論や反論の入り込む余地がある。そんな異論や反論を交えて議論したり、そこから合意を形成したりすることで、『両輪』は安定して前に進むことができる。ところが、現実の多くの(ほとんどの)自治体では、『両輪』の間にほとんど距離がない。ぴったりくっついている。そこには異論や反論の入り込む隙間がない。したがって、議論もない。これを一体化と言ってもいいが、癒着と言う方がわかりやすい。両輪が癒着した『一輪車』である。『一輪車』と化した議会ではまともな議論を欠いたまま、執行部が提案した議案はすべて無傷で可決される。何ごとも人目につかない所で決められていて、表の議場では質問者と首長が原稿を整然と読み合う儀式が繰り広げられる。これを筆者は『八百長』と『学芸会』だ批判した」(『世界』2016年12月号)
 

 秋の虫たちのすだきが大きくなってきた。この地の冷え込みは一足飛びにやってくる。かがり火に手をかざすと遠くの方にほてった光景が点滅していた。「一輪車」談議に花を咲かせる市の幹部職員や議員たちの姿がちらついた。賢治作品をペルシャ語に翻訳しているイラン人女性、賢治の思想性を研究している中国人女性、校内放送でこの日のイベントを知り、隣の北上市から自転車を漕いで駆けつけたという高校3年生…。賢治への思いを語った全国からのファンは25人以上にのぼった。目の前では国際色豊かな「賢治」談議に一段と熱がこもってきたようである。

 

(写真は全員が女性部員という花巻農業高校の鹿(しし)踊りの勇壮な演舞=9月21日午後7時すぎ、花巻市桜町4丁目の賢治詩碑前で)

 

 


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