「そのいきの臭えこと」:はなめいと|岩手県花巻市のコミュニティ

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「そのいきの臭えこと」



 「そのいきの臭えこと」(詩集『鮫』収録「おっとせい」)―。詩人の金子光晴(1895年―1975年)が吐き捨てるような口調で、その詩の筆を取ったのは盧溝橋事件が勃発するなど戦雲ただならない昭和12年、今からちょうど80年前のことである。詩はこう続く。「くちからむんと蒸れる/そのせなかがぬれて、はか穴のふちのやうにぬらぬらしていること/虚無をおぼえるほどいやらしい/おゝ、憂愁よ」。それから28年後、日本が高度経済成長を謳歌していたそのさ中、金子は今度はこう書き記した。「このくには倖せになるどころか/じぶんの不幸をさへ見失った」(詩集「IL」収録「齒朶」)
 
 言葉がその本来の意味を失った時、暴徒化の兆しが始まる。腐臭を発し、吐く息が臭(くさ)くなる。金子が「倖せの喪失」を嘆いてからさらに半世紀―。私たちは今、無間(むげん)地獄のただ中に投げ出された感がある。その様(さま)を白日の下にさらけ出してくれたのが例の森友事件に端を発した「忖度(そんたく)」騒動であろうか。「他人の心中をおしはかること」―。手元にある広辞苑第4版(1994年版)はこう解説している。私たちの世代はその語意について「気づかい」や「思いやり」を意識した。今後の改訂版にはきっと、こう記述されるにちがいない。「上目づかいに上司の顔色をうかがうこと。民衆に背を向け、自己の保身にうつつを抜かすの意も」―。

 「忖度」は川の流れのごとく、上流から下流へと流れ落ちる。わが宰相がその名もずばり「キング」(君主)を自称する米国のトランプ大統領にかしずく姿を見れば一目瞭然である。トップが「プチトランプ」なら、部下はそれに右ならえという構図である。「自己責任」(福島の自主避難者に対して、復興大臣)、「ポジショント−ク(自身に都合の良い発言)するような向きも」(米軍普天間飛行場の「辺野古」移設中止を求める沖縄県に対して、北方・沖縄大臣)、「がんは学芸員」(文化財観光に関連して、地方創生大臣)…。この御三方は揃いもそろって、日本の最高学府の出なそうである。ああ、「そのいきの臭せいこと」!!

  一方で、こんな騒ぎも。「パン屋」→「和菓子屋」、「アスレチックの公園」→「和楽器店」…。来年度から小学校に導入される「道徳」の教科書をめぐって、何社かの教科書会社が文部科学省の検定意見を受け入れ、表現を書き換えたことが最近話題になった。「なぜ、パン屋ならダメなのか」―。「指導要領にある『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つ』という点が足りない」というのが文科省の言い分らしいが、今度はパン製造業界から異議申し立てが起きた。教科書会社が文科省の顔色をうかがうという意味ではこれも立派な「忖度」である。

 「憲法や教育基本法等に反しないような形で、教育勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」―。こんなドサクサに紛れる形で、政府は3月31日「教育勅語」を学校教材として使うことを容認する政府答弁書を閣議決定した。「忖度」騒動の発端となった森友事件では、法人側が経営する幼稚園で教育勅語を素読させていた事実が明らかになった。この騒動を抜け目なく利用しようという政府の魂胆がミエミエである。「教育勅語が注目されたのはけがの功名。閣議決定した政権のしたたかさを感じた」(4月12日付「朝日新聞」)とある国会議員は高吟して憚(はばか)らない。「けがの功名」とは―。「過失が思いがけなくも、よい結果を生むこと」と広辞苑にはある。「言葉」を愚弄するのもいい加減にせいや、と心底思う。
 
 下流域の足元も例外ではない。市議会での当局側答弁でいつも不思議に思うことがある。幹部職員が補足答弁する際、申し合わせたように「いま、市長が答弁した通りですが…」と必ず前置きをする。「聞いたばかりなので、分かっているよ」と私はその都度、イライラする。この枕詞の背後からも何かしら「忖度」の臭いが漂ってくる。「1強多弱」の高笑いだけがやけに耳にうるさい。「夫婦して『李下に冠』理解せず」(4月18日付「朝日川柳」)―。こんな川柳が新聞に載っていた。言葉の根腐れ病とも言える腐臭が蔓延する中で、清々(すがすが)しい文章に出会った。道徳教科書をめぐる中学1年生の意見である。
 
 「道徳は、人によって感じ方が違うから『道徳』なのだと思います。道徳とは、色々な視点から物事を考えるという『答えのない』ものであるからこそ、必要なのだと思います。少なからず答えのある『道徳』は、子どもには必要ないのではないでしょうか。答えの無い教科、それが『道徳』の『答え』なのではないでしょうか」(4月6日付「朝日新聞」声欄)

 傍らのテレビは経済産業大臣政務官を辞任した政治家をめぐる”重婚”騒ぎで話題が持ちきりである。投書をした女子中学生にこの男は一体、どう申し開きをするつもりなのか。そもそも、できるのか?!―。選挙区が「ヒロシマ」だというのだから、なおさら許せない。


(写真は首相主催の「桜を見る会」の安倍首相夫妻。森友事件などどこ吹く風、お二人は満面の笑み=4月15日、東京・新宿御苑で。インタ−ネット上に公開の写真から)


2017.04.20:Copyright (C) ヒカリノミチ通信|増子義久
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