故郷秋田で出会った人たち:生涯学習ノート
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T君は中学時代の同級生
数年前に再開し、同級会を立ち上げるために一緒に行動してきた友人である
ガンが転移したことを告げなければいけないと思い、電話した
「ガンが肝臓に転移してしまった。ちょっと厳しい状況になってしまった。でも何とか頑張ってみるよ」話したあと「わっはっはっは」とつい笑ってしまった
重たい話を少しでも軽くするつもりで笑ってしまったのだ
するとT君は「おめー、笑っている場合ではねーベー、なんとそれだば大変なことでねーが!」と怒鳴り出した
そんなつもりでは笑ったのではないよ、と思いながらもT君の怒鳴りの電話はうれしかった
大きな励ましの電話となってくれた
小学時代の同級生F君はパソコンをやっている
ブログに投稿した遠隔転移の記事を見ていてくれた
前から仕事で秋田へ来る予定を知っていたF君は、「励ます会」やるとメールを寄こした
「酒も飲めないし、仕事もあるので・・」といったがF君は、酒は飲まなくていいし途中で帰ってもいいから、という
急遽集まったのはいつもの5人
いつものカラオケスナックで食時をしながらのカラオケが始った
何曲目かになってF君は「青葉城恋歌」を歌いだした
「広瀬川流れる岸辺 想いでは帰らず
早瀬躍る光に 揺れていた君の瞳
季節はめぐりまた夏が来て
あの日と同じ流れの岸
瀬音ゆかしき杜の都 あの人はもういない」
あの人はもういない・・・・
「あれ!F君!ひょっとして俺のことを歌ってくれているのか」
と冗談に言ってみた
F君は歌いながらなにかぶつぶつ言っていたがカラオケの伴奏の音で聞き取れない
二番も三番も最後は「あの人はもういない」で終わる
ひょっとしたらF君は「あの人はまだいる」と歌い直したのかもしれない
今回仕事したところの近くに住んでいる小学校時代の先生に仕事が終わった帰り道に寄った
先生はもう88歳になるが元気である
前日に、小学校の同級生5人で集まったときに、明日先生にはガンの転移のことを話すと宣言していた
余命宣告を受けるようなことになれば、これから先生宅を訪問ができなくなることを伝えておいたほうがいいと思ったからだ
先生宅へは年に2、3回訪問しているのである
仕事先の自衛隊の車に送られて、先生宅へ近づくと、玄関の前にたたずんでいる人がいる
先生が玄関の前に立って待ってくれていたのだ
玄関に入ると奥さんが出てきて、「まーお元気そうで、いい顔色していること!、良く来てくれましたね!」とこちらの思いを封じるかのように矢継ぎ早に元気な声でしゃべる
座布団に座っても「今日も仕事で頑張ってきたのですか、素晴らしいですね」と話し続ける
先生はニコニコしながら奥様の話を聞いておられる
そんな先生の笑顔を見ていると、ガンの転移の話を切り出すことはできなくなってしまった
そのまま帰ることにした
先生と奥様はタクシーのところまで歩んで来て、窓を開けさせ、手を握ってお別れをしてくれた
ひょっとしたらこれでお別れになるかもしれないという私の気持ちを察したような丁寧なお見送りであった
先生と半世紀ぶりでであったのは6年前のことである
小学校時代の同級会を立ち上げようと思い、先生の住所を探し、ご自宅を尋ねたことから始った
先生はたいそう喜んでくれて50年ぶりに再会した旧教え子に「今日は泊まっていけ」といってくれた
今日はガンの転移の話を出すことはできなかったが、これでよかったのだ
先生よりも先に死ぬわけにはいかない
ガンを抱えながらでも生き延びてみよう
命があれば、また先生のお宅を訪問できる
そう思いながら先生宅を後にした